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遠藤周作 「海と毒薬」

出版各社が毎年行っている夏の文庫フェア。本屋さんでラインナップを見ると、学生時代に読んだ懐かしい作品や、読もうと思いつつ読みそびれていた作品に出会って、つい手に取ってしまいます。先日久しぶりに、遠藤周作さんの「海と毒薬」を再読しました。

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(角川文庫の限定装丁は、夏らしい涼しげな手ぬぐい柄)

この作品との出会いは、高校時代。(登場人物の)戸田の少年時代の回想部分が、当時 国語の教材となっていたのですが、その後全文読みたくなって、すぐ本を買いに走りました。衝撃を受け、強烈な印象を残した思い出深い作品です。

作者の遠藤氏は、「神なき日本人の罪」をテーマにこの小説を書かれたということですが、古今東西を問わず、戦争という大義のもとで、多くの非道が行われてきたことをふりかえると、これは日本人に限らない、人間全体のテーマではないかと思いました。

実際 本書の中で、日本人の対極として描かれているドイツ人のヒルダさんも、私にはそれほど遠い存在とは思えないのです。当時と今とでは、日本を取り巻く環境は大きく違っていて、西洋との心理的境界をあまり感じなくなっている、ということもあるのかもしれません。

前回読んだ時も、そして今回も、私の心を捉えたのは戸田の存在です。彼の告白に、ことの大小はともかくとして、(無意識を装いながら)意識的に自分が犯してきた罪の数々を思い出します。

良心の呵責や罪の意識を感じたくて、事件に加担していった戸田ですが、彼が少年時代から自分の犯してきた罪をひとつひとつ記憶していることは、すでに彼が罪の赦しを求めていることに他ならないのでは…と思いました。

今回知ったのですが、「海と毒薬」は1986年に映画化されていて、しかも私の好きな渡辺謙さんが戸田を演じているとのこと。ちょっと恐いですが、これは是非見ておかなくては、と思いました。

また、主人公の勝呂に関しては、この後、遠藤氏が「悲しみの歌」という続編を書かれていることを知りました。こちらも近いうちに、読むのを楽しみにしています。

【 追記 】 「悲しみの歌」 感想

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コメント

元キリスト教徒の私にとって、この作品に対する思いは複雑です。今でこそ、原罪とはキリスト教の布教のための戦略だと思っていますが、多感な十代の頃はずいぶんと悩まされたものです。再読したいと思いつつも、未だに手を出しかねてる作品でもあります。でも、いつかきっと手に取るとも思っています。

投稿: ヌマンタ | 2011年7月29日 (金) 12時31分

今晩は。

私、記事の中でも書かれてる映画版は見た事があります。
モノクロの静かな雰囲気の映画だった事を覚えています。

見たのがかなり前なので詳細は忘れてしまったのですが、まさに「神の沈黙」と表現したくなる様な、静かで淡々とした雰囲気の中で行われる、非人道的な行為の描写が迫力のある作品でした。

私も、是非、原作も読みたいと思います。book

投稿: ごみつ | 2011年7月30日 (土) 01時08分

☆ ヌマンタさま ☆
私は最初に読んだ時は、行為に対する衝撃が大きかったですが
今回新しい発見があったので、やはり読んでよかった、と思いました。
日本人を取り巻く環境は、小説の当時と大きく変わっているので
今の感覚と多少ずれを感じましたが
作者が問いかけていることは、洋の東西を問わず
人間の永遠のテーマだと思いました。
年を経てまた読んでみたい、と思わせる作品ですね。

投稿: ☆ ヌマンタさま ☆ | 2011年7月30日 (土) 01時45分

☆ ごみつさま ☆
ごみつさんは、映画の方をご覧になったのですね~。
映画は、あえてモノクロなのですね。
おそらく監督さんは、行為が生み出す映像的な刺激よりも
その底にある心の問題を重視して描きたかったのでしょうね。
お話をうかがって、監督の良心を感じました。

配役を見て、これまた絶妙だなーと思いました。
演技派そろいで、ものすごく期待できそう。
是非見てみたいです。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2011年7月30日 (土) 02時04分

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受信: 2012年2月21日 (火) 14時11分

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