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角田光代 「八日目の蝉」

角田光代さんのベストセラー小説、「八日目の蝉」を読みました。角田光代さんは、以前インタビュー記事を読んで、その誠実な印象に好感を持っていましたが、小説を読むのはこれが初めてです。この春に映画化されて好評だったこともあり、気になっていた作品です。

  Youka_semi

妻子ある男性と交際していた希和子は、はずみから相手の家の赤ちゃんを誘拐してしまいます。友人宅、名古屋、あやしげな宗教施設…と転々とし、小豆島でつつましくも幸せな生活を築きはじめたところを逮捕され、4年間の逃亡生活はピリオドに。子どもは実の親元にもどされますが…。

私は、こういう母性をテーマにしたどろどろとした話は苦手で、希和子の行動にも全く共感できなかったのですが、それでも最後まで読み進めることができたのは、折に触れて、はっとする場面や印象に残る一言に出会えたからだと思いました。

小説の前半では、希和子の視点で誘拐から逮捕されるまでが、後半では希和子が4歳まで育てた薫(恵理菜)の、大学生に成長してからの視点がつづられています。希和子の視点はなんとなくわかりますが、恵理菜の視点は私には全く想像が及ばなかったので、作家のイマジネーションに感心しました。

素朴で穏やかな小豆島での生活が突然失われ、大好きだったお母さんと引き離されて、実の親元にもどされた恵理菜。最初は小豆島にもどりたいと思うものの、それが決してかなわないことと知り、なんとか両親の愛を得ようと努力します。

しかし、恵理菜の行動には希和子との生活の習慣が、ことばには小豆島の方言がつい出てしまいます。恵理菜の中に希和子の影を見るたびに、母親はそれを追い出そうとヒステリックになり、やがて家庭を放棄してしまいます。辛い少女時代を送った恵理菜は、大学入学を機に、家を出て一人暮らしをはじめます。

私はこれを読んで、ガラパゴスを旅した時の、ネイチャーガイドのことばを思い出しました。それは、「野生動物には決して手を触れてはならない」ということです。野生動物の赤ちゃんに一度でも人間の匂いがつくと、親は子育てをしなくなり、やがて子どもは干からびて死んでしまうのだそうです…。

たとえどんなに希和子がいいお母さんで、薫(恵理菜)を愛情深く育てたとしても、希和子のしたことは決して許されることではない、と思いました。

恵理菜は、幼ななじみの千草とともに、過去と決別するため小豆島を訪れます。最初は気が進まなかった恵理菜ですが、島で懐かしい風景に出会い、希和子が逮捕された時のひとことを思い出した時、自分が愛されていたと確信します。恵理菜が薫としてすごした4年間は、これから新しい力を与えてくれる… そう信じたいです。

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コメント

井上真央、永作博美さん主演の話題作映画でしたね。
内容的にどろどろとした心の葛藤が描かれている
人間ドラマ・・・
その中で、仰るように恵理菜の視点描写は、
面白いと思いますし、表現が難しく、作者の腕だと思います。
流石に直木賞作家ですね!

投稿: イザワ | 2011年8月14日 (日) 01時53分

☆ イザワさま ☆
角田光代さん、どろどろした世界を描きつつも
清潔感の感じられる文章だと思いました。
ちょっとした行動とか、ひとこととか…
女性の描き方の巧さはさすがでした。

永作さんは私にはしっかり者のイメージなので、
希和子役はちょっと意外ですが、演技に定評のある方なので
映画も是非見てみたいです♪

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2011年8月14日 (日) 07時23分

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