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平野啓一郎 「決壊」

以前ごみつさんがご紹介されていておもしろそうと思い、平野啓一郎さんの社会派ミステリー、「決壊」(上・下)を読みました。読んだのは先月ですが、あまりにも内容が衝撃的すぎて、ホリデイシーズンにはふさわしくない…と記事にするのをためらっているうちに、今になってしまいました。

それほどまでにこの作品で描かれる世界は、非情で、陰湿で、残酷で… 誰一人救われることがありません。それでもぐいぐい最後まで引き込まれ、読み進めることができたのは、ひとつには事件の真相を知りたいという純粋な好奇心、ミステリーとしてのおもしろさがあったから。

そしてもうひとつ、大きなストレスを抱えた現代社会、そしてネット社会に生きる私たち誰もにとって、他人事ではない…という恐怖が、私を震撼させ、目を逸らせなくしたのだと思います。読後感は決して愉快ではありませんが、読んでよかったと思える作品でした。

Kekkai

山口県に住む会社員の沢野良介は、妻と子と幸せな家庭を築きながらも、ネット上では、エリートである兄へのコンプレックスや日頃の不満、悩みなどを書き綴っていました。大阪出張の折、同じく出張で関西に来ていた兄の崇と会った良介は、その後行方不明となり、後日バラバラ死体となって発見されます。

間もなく兄の崇が容疑者として逮捕されますが、取調べの最中に新しい事実が明らかになり、事件は思わぬ方向へと展開していきます…。

ミステリーなので詳細に触れることは差し控えますが、私は犯人の想像を超えた残虐性に、まず背筋が凍りました。しかしそれと同じくらいに、薄気味悪く、不快に感じたのは、多くの一般の人たちの”姿なき悪意”です。

遺体の写真をネットにばらまく発見者たち、容疑者のことを知らずに憶測で中傷する人たち、事件を模倣し捜査を攪乱する人たち、被害者や加害者の家族のプライバシーを暴き、執拗に追い回す人たち…。

自分と直接関わりのない人に対するこれほどの好奇心、これほどの悪意は、いったいどこから来るのだろう…。そして、ネットのもつ利便性や匿名性が、こうした悪意ある行為に対して簡単に手段を与え、後押ししててしまうことの恐怖を改めて感じました。

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コメント

今晩は。cherry

この作品の持つテーマは、本当に深刻なものですよね。
残酷で、辛い内容ながら、読むのをやめられなくなるのは、確かにこの作品のミステリー性にもあると思います。

途中で、「もしかしたら、やっぱり彼が犯人?頭がすごく良いし・・」なんてチラっと思いませんでした?読者も知らず知らずのうちに憶測で人を疑ったりするんですよね。

最後の方で、主人公が弟への思いを恋人にはきだすシーン、私何度も読み返して、泣いちゃいました。仮面をつけて他人と接し続けなけれなならない現代社会に生きる人間の心の痛みが、強烈でした。typhoon

セレンディピティさんも綴られてる様に、本当に他人事とは思えない恐ろしさを描いた作品だな・・と私も感じました。book

投稿: ごみつ | 2012年1月27日 (金) 00時51分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
「決壊」ご紹介くださって、ありがとうございました♪
しばらく放心してしまうくらいに衝撃を受けましたが読んでよかったです。最後までぐいぐい読ませる筆力があって、ミステリーとしてもおもしろかったですね。現代社会が抱える問題がいくつも描かれていて、いろいろ考えさせられました。

上巻は読者のミスリードを狙っていた節もありましたね。
私は松本サリン事件が起こった時のことを思い出しました。
警察やマスコミによって情報が作られ、それが受け手である
私たちによって決定されていく怖さを覚えました。

深い悲しみの中にあっても、家族からも信じられず
たったひとりで苦しみを背負っていかなくてはいけない孤独…
とても想像の及ばない状況ですが、胸に突き刺さりました。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年1月27日 (金) 14時51分

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» 決壊 [ごみつ通信]
平野啓一郎著 新潮社上巻 ISBN 9784104260072下巻 ISBN 9 [続きを読む]

受信: 2012年1月27日 (金) 00時41分

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