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「ルート・アイリッシュ」

イギリスのケン・ローチ監督の最新作、「ルート・アイリッシュ」(Route Irish)を見に行きました。イラク戦争における軍事ビジネスの実態を、あるイギリス民間兵の姿を通じて描いた骨太の社会派作品です。

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イギリスの民間軍事会社に民間兵として登録しているファーガスは、多額の報酬がもらえるからと親友のフランキーを誘い、ともにイラクの戦場に向かいます。一足先に帰国したファーガスは、フランキーが”世界で最も危険な道路”といわれるルート・アイリッシュで命を落としたことを知ります。

フランキーの死因について会社からの説明に納得がいかないファーガスは、独自に真相を調べ始めます。後に手に入れたフランキーの携帯電話に残された映像を見たファーガスは、フランキーがトラブルに巻き込まれたことを確信、さらに驚くべき真実が明らかになります…。

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イラク戦争を題材にした映画は、これまでマット・デイモン主演の「グリーン・ゾーン」、アカデミー作品賞を受賞した「ハートロッカー」と見てきましたが、今回この作品を見て、改めてイラク戦争って一体何だったのだろう、何の意味があったのだろう、という思いを強くしました。

アメリカはじめ各国において、防衛費を削減する目的で使われ始めた民間軍事会社は、9.11以降、テロの頻発とともに急成長し、イラク戦争では10人の兵士のうち1人が民間兵といわれています。

こうした民間軍事会社の急速な拡大に対して、法整備が追いつかず、これまでにも戦場という無法地帯で数々の不祥事が起きていました。集められた兵士も、愛国心や使命感ではなく、この映画の主人公たちのように報酬目当てという人が大半なのかもしれません。

戦争の目的が見えず、指揮系統もはっきりしない中、意識の低い兵士たちが暴走するのは当然のなりゆきかもしれません。そして、こうした異常な環境の中にいたら、フランキーならずとも精神的に追い詰められていくのは無理もないと思います。

莫大な報酬と引き換えに失うものがいかに大きいか…。それを考えずに安易に志願する民間兵たち、そしてそうした民間兵の存在が、軍事ビジネスを潤しているという現実に憤りを覚えました。

ファーガスはフランキーの死因を探るうち、民間軍事会社がある事件を隠蔽しようとし、そのためにフランキーが犠牲になった、という真実にたどり着きます。しかしながら、それに対してファーガスが起こした行動は、テロリストとなんら変わらないものでした。

主人公が、こういう手段でしか不正を訴えることができなかったことに、なんともやりきれない思いが残りました。後味はあまりよくなかったですが、こうした危険な仕事に従事せざるを得ない労働者の現実を、ケン・ローチ監督は描きたかったのかな?と思いました。

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コメント

こんばんは。TBとコメントありがとうございます。

さてこの作品はケン・ローチには珍しいサスペンスかつ戦争もので...でもその戦争へ行った民間人の二人はケン・ローチの世界に描かれる労働者階級の男たちでした。

現代の日本では考えられない、報酬をもらっての戦争への民間人の参加。いわゆる傭兵ですよね。かつてフランスがアルジェリアとの戦争でもたくさんの傭兵を募ったようです。

ファーガスの最後は辛かったですが、フランキーへの敵とも思える非合法なリヴェンジは痛快でした。

投稿: margot2005 | 2012年4月25日 (水) 23時47分

☆ margot2005さま ☆
こんにちは。
こちらこそ、ありがとうございます♪

ケン・ローチ作品を見るのは、実はこれが初めてでしたが
民間軍事会社や民間兵については以前から関心があったので
興味深く見ることができました。
「麦の穂をゆらす風」も見てみたくなりました♪

傭兵の歴史は古いのですね。
民間軍事会社の登場で、戦争がよりビジネスライク?になったようですが
簡単に人の命が売り買いされているようで、恐ろしく感じます。

ファーガスの反撃は迫力あるシーンでしたね。
最後の決断から、彼の苦しみが伝わってきました。

投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2012年4月26日 (木) 11時03分

こんにちは!cherry

そうそう、ケン・ローチの新作だな・・と思って気になってましたが、セレンディピティさんの記事でストーリーがくわしくわかりました。
テーマはかなりシビアですね。

私も是非見てみたいな~。

「麦の穂をゆらす風」は見ましたが、アイルランドのイギリスからの独立戦争がテーマで、こちらも骨太な作品でした。

ご参考までに拙記事はこちらから。
http://green.ap.teacup.com/0471/160.html

投稿: ごみつ | 2012年4月26日 (木) 17時11分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは♪
ごみつさんも、この作品、気になっていらしたのですね。
テーマは重いですが、特に主人公が労働者階級ということで
考えさせられることも多く、見応えのある作品でした。
機会があれば、DVDになってからでも是非ご覧になってみてください。

ごみつさんは、「麦の穂をゆらす風」ご覧になったのですね。
アイルランドとイギリスは独立した今も関係をひきずっているので
決して過去の問題ではないのでしょうね…。
こちらも近いうちに是非見てみたいです。
ご紹介、ありがとうございました☆

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年4月27日 (金) 15時21分

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