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「別離」

「彼女が消えた浜辺」のアスガー・ファルハディ監督によるイラン映画、「別離」(Nader and Simin, A Separation)を見ました。今年のアカデミー賞とゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞、ベルリン国際映画祭で主要3部門を独占受賞した話題作です。

「彼女が消えた~」と同様、イランの今を生きる人々の姿を通して、この国の社会背景や宗教(イスラム)との関わりを見ることができて、興味深かったです。離婚、教育、介護、格差といった万国共通の問題をからめつつ、サスペンスフルに展開していく人間ドラマに、最後までぐいぐいと引き込まれました。

  Separation

テヘランで教師として働くシミンは、11歳になる娘の将来を考え、国外へ移住する準備を進めていましたが、夫のナデルは、認知症の父を置いては行けないと反対。二人の離婚協議が進む中、シミンは家族を残して実家に帰ってしまいます。ナデルは父の介護のため、ラジエーという女性を雇います。

しかし、ある日ナデルが帰宅するとラジエーはいなく、父はベッドから落ちて気を失っていました。ナデルはもどったラジエーを厳しく問い詰め、乱暴に家から追い出しますが、その際に階段で転倒したのが原因で流産したと、後日ラジエー夫妻から訴えられます…。

Separation2

離婚協議のシーンから始まるこの作品、イスラムの慣習でスカーフをかぶってはいるものの、女性のシミンがナデルと同等に、自分の言い分を激しく主張しているのが、私の目には新鮮に映りました。イランの中間層では女性も教育を受けて社会進出し、男女間の格差はほとんどないと見受けられました。

実際、シミンやナデルを見ていると、子どもの教育に熱心で親の介護に悩む、私たち日本人と何ら変わらない夫婦の姿がありました。しかしある日、ナデルの生活にラジエーが入ってきたことで、私は異文化の世界に引き込まれた気がしました。

貧困層にいるラジエーは、失業している夫に代わって働くため、何時間もかけてナデルのもとに通ってきます。敬虔なイスラム教徒である彼女にとって、男性の介護をすることは体に触れることであり、教義に反すること。それは彼女を苦しめ、夫に打ち明けることもできません。生活を守るため、彼女は秘密を持ち続けます。

一方、ナデルも嘘をつきます。ラジエー夫妻から訴えられた時、彼は彼女が妊婦とは知らなかった、と主張します。もし知っていたとしたら、彼は(胎児を死なせた)殺人罪に問われてしまうからです。そしてナデルを守るため、娘のテルメーも嘘の証言をします。

ナデルやテルメーの嘘はわかるのですが、ラジエーがつく嘘の数々は、はてな?と首をかしげたくなることもしばしばでした。この違和感は、「彼女が消えた浜辺」を見た時にも感じたものですが、それは私たちがイスラムの教えになじみがない、ということから来ているように思いました。

最終的にはシミンがラジエー夫妻に示談金を払うことで話をつけ、これで一件落着… と思いきや、ここでも信仰という大きな壁が立ちふさがり、大どんでんがえしが起こります。

Separation5

脚本のみごとさにうなりながら、神なる存在を心から求める人たちを、がんじがらめにしてしまう信仰の重さをふと考えてしまいました。

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コメント

「オレンジと太陽」に続いて本作も見たいのですが・・・地震以来、一人で東京に出るのがちょっと怖いのです。それで神奈川に来るか、DVD発売をまっているのですが、なかなかです。本作は川崎で公開中、横浜にも今月末にはくるようですので楽しみです。

投稿: ryoko | 2012年5月 8日 (火) 22時52分

社会問題は共通していても、信仰が違う(というより日本はない?)
と、問題に対する考え方、行動が違ってくるんですね。
とても興味深いお話です。

投稿: イザワ | 2012年5月 9日 (水) 01時29分

☆ ryokoさま ☆
ryokoさんは、たしか銀座で映画をご覧になっている時に
震災に遭われたのですよね…。
不安になられる気持ちはよくわかります。

こういうマイナーな作品は、上映館が限られてしまいますよね。
都内でもル・シネマだけなので、かなり混み合っていました。

好みが分かれる作品かもしれませんが
私には興味深く、楽しめました!
お近くで上映されたら、是非ご覧になってみてください☆

投稿: ☆ ryokoさま ☆ | 2012年5月 9日 (水) 08時40分

☆ イザワさま ☆
イスラムって、私たちにはまだまだなじみがないですよね…。
私は、イランがイスラム社会とはいえ、意外と民主化?西洋化?
していることに新鮮な驚きがありましたが、背景には
(特に貧しい人々にとっては)イスラムの教えが根強くあることを改めて感じました。

映画を通じて、未知の国の文化や社会、考え方に触れることができて
興味深かったです。

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2012年5月 9日 (水) 08時55分

今晩は。cherry

これも内容の深いドラマですね・・。

普段は慣れ親しんでいない国の作品を見ると、文化的、歴史的な事を知る事が出来て、けっこう衝撃をうける事も少なくないですよね。

でも、その国の文化を知る事、彼らが何を感じながらどういう風習のもとで暮らしてるのかを感じるために映画は本当に素晴らしい媒体ですよね。movie

米アカデミー賞や、ベルリンでも賞をとってる様ですので、きっと出来栄えも見事なのでしょうね!是非見たい作品です。

投稿: ごみつ | 2012年5月10日 (木) 00時56分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは♪
シリアスな映画ではあるのですが
サスペンス風に描かれているので、最後までぐいぐいと
引き付けられるおもしろさがありました。
嘘と秘密が絡み合いながら、ちゃんとロジカルにつながる
展開がみごとでした。
数々の映画賞を受賞しているのも納得!です。

映画を通じて、未知の国の文化や社会、歴史などに
触れることができるのは楽しいですね。
この作品でも、イランの”今”について、いろいろ知ることができて
興味深かったです。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年5月10日 (木) 13時27分

こんばんは。
いつもありがとうございます。

宗教は常にとても非日常的なことなので、こういった映画を観るといつも面食らいます。しかしながらイスラムの世界を描いた映画は結構観る機会があるんです。
シミンとラジエー、二人の女性の生き方の違いが色濃く描かれ中々良かったですね。

先だってもチャドルをまとった敬虔な女性....サウジアラビアでしたが...の社会進出のようなニュースをBSで観てスゴく興味深かったです。

わたし的にはシミンが自己中でナデルが気の毒でした。

投稿: margot2005 | 2012年5月10日 (木) 21時50分

☆ margot2005さま ☆
おはようございます♪

margotさんは、イスラム社会を描いた作品を
いろいろご覧になっているのですね。
私にとっては、まさに異文化の世界で
特に女性の描き方が西側社会と大きく違うので
とまどうことが多いです。それがまた楽しさでもあるのですが。
イスラムの中でも、西洋的考えに感化されているシミンのような人たちと
戒律にしばられているラジエーのよう人たちがいる
と知って、興味深かったです。
国によってまた、大きく違うのでしょうね。
イランは西洋化が進んでいる方なのかな…と思いました。

シミンにとって、離婚してまでも国外移住にこだわることは
はたして意味はあるのかな?と思ってしまいました。
もしもテルメーがナデルを選んだら、国外に出る理由も
なくなってしまいますものね…。

投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2012年5月11日 (金) 06時53分

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