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「オレンジと太陽」

先日見た「ルート・アイリッシュ」のケン・ローチ監督の息子、ジム・ローチ監督による初の長編映画、「オレンジと太陽」(Oranges and Sunshine)を見ました。

原作は、マーガレット・ハンフリーズ著の「からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち」(Empty Cradles)。イギリス政府が1970年代まで密かに行っていたオーストラリアへの強制児童移民の実態を、彼らの家族を探す活動を続けてきたソーシャルワーカー、マーガレットの姿を通して描いた、実話に基づく作品です。

  Oranges_and_sunshine

ソーシャルワーカーのマーガレット(エミリー・ワトソン)は、ある女性から「私が誰か調べて欲しい」と依頼されます。彼女は家族と離れて養護施設に預けられた後、子どもばかり大きな船に乗せられて、”オレンジと太陽の国”オーストラリアに送られた、というのです。

最初は半信半疑だったマーガレットは、偶然同じ話を他の施設出身者からも聞き、独自に調査を始めます。そこで明らかになったのは、イギリス政府が福祉の名のもとに、13万人もの施設の子どもたちをオーストラリアに強制移民させていたという事実。子どもたちを待っていたのは過酷な労働や虐待でした。

調査のためオーストラリアに渡ったマーガレットは、自分が何者か知りたい、家族と会いたいと願うかつての孤児たちの声に耳を傾け、イギリスとオーストラリアを往復し、時に国家権力や宗教団体の妨害を受けながら、幾千もの家族を結びつけるため奮闘します…。

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イギリスの強制児童移民のことは、この映画を通じて初めて知りました。1986年にマーガレットが動き始め、その後メディアに注目されるようになるまで、この国家的犯罪は英豪両政府によって封印されていたのです。

なぜ児童移民が行われたのか、理由は明らかにされていませんが、植民地における人口政策など、そこには両政府の思惑があったようです。この映画の制作が進む中、2009年にオーストラリア首相が、2010年にイギリス首相がようやく事実を認め、正式に謝罪しました。

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マーガレットを訪れる元孤児たちの告白はどれも衝撃的でした。悲愴な体験もさることながら、自分が何者かわからない、というのがどれほど不安なことか、とても想像ができません。大の男が子どものように「お母さんに会いたい」と泣きじゃくる姿に、胸がつぶれる思いがしました。

そして、家族の理解を得て、身の危険に脅かされながらも、元孤児たちの記録を丹念にたどって家族を見つけ出す、マーガレットの粘り強い仕事ぶりと勇気ある行動に心を打たれました。マーガレットの真摯な働きに、元孤児たちは全幅の信頼を寄せるようになります。

マーガレットと元孤児であるレンが、かつて神父たちによる虐待が日常的に行われていた、人里離れた荒野の教会を訪れる場面には緊張が走りました。本来は心のよりどころとなるべき信仰の場で、秘密裡に行われていた悪魔の所業。声にならない怒りに震えました。

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今も児童移民の家族を探す活動を続けているというマーガレット。作品のテーマは重いですが、見終わった後には不思議と気持ちは晴れ晴れとし、深い感動に包まれました。

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映画」カテゴリの記事

コメント

今晩は。cherry

この映画の原作、今、うちの職場でもペーパーバックで平積みしてます!こういう作品だとは私もはじめて知りました。

っていうか、こんな事が行われていたなんて初めて聞きました!一体、いつ頃からはじまった事なんですか?
それにしてもどうしてこんな大規模な出来事を隠ぺい工作できたのかしら?shadow

私も是非、この作品見てみたいです。監督はケン・ローチ監督の息子さんなんですね~。
ご紹介有難うございます。

投稿: ごみつ | 2012年5月 5日 (土) 00時16分

最近、色々な暗い歴史的事実が明かされる
ことがありますが、今日の映画のお話は
衝撃的ですね。
映画という文化の力も凄いと感じるとともに
こういった事実を世に知らしめようとすることに
妨害が入らないことを、今後とも祈りたい気持ちです。。。

投稿: イザワ | 2012年5月 5日 (土) 03時14分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは♪
映画化されたこともあって、原作も注目されているのですね。
私も近いうちに読んでみようと思っています。

施設の子どもたちを強制的に植民地に移住させる「児童移民制度」は
1896年に始まったそうです。
どうして今まで隠し通すことができたのでしょうね…
やはり被害者となったのが、弱い立場の子どもたち
ということが大きいかもしれませんね。
彼らは抑圧された環境の中にいて、
周りに信頼できる大人たちもいなかったでしょうし
教育を受ける機会がなかったので
この窮状をどうやって訴えたらいいのか手立てがなかった
ということもあったかもしれません。

テーマは重いですが、見てよかったと心から思える
すばらしい作品でした。
親子そろって、すてきな監督さんですね。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年5月 5日 (土) 09時53分

☆ イザワさま ☆
ソーシャルワーカーのマーガレットは、
家族をイギリスに残してこの問題のために働いたので
家庭のことも犠牲にせざるを得なかったですし
ご本人も、孤児たちのあまりに悲惨な人生に接したり
宗教団体からも脅迫されたりして
精神的に追い詰められたこともあったようです。
その地道な努力が、英豪両政府を動かすことにつながった
というのはすごいことですね。
そして、この問題をより多くの人に知らしめた
映画の力もすばらしいと思いました。

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2012年5月 5日 (土) 10時09分

こんばんは。
もうご覧になったのですね。
公開前にこの作品の紹介を読み、是非見たいと思っているのですが、関東では岩波ホールだけですよね。
横浜では公開されないだろうし、DVDを待ったら半年後くらいになりそうですよね~。
早く、見たいです。

投稿: ryoko | 2012年5月 6日 (日) 01時23分

☆ ryokoさま ☆
こんにちは♪
ryokoさんも、この作品気になっていらしたのですね。
作品への期待もさることながら、
ケン・ローチ監督の息子さんのデビュー作という話題性もあり、
岩波ホールはかなりお客様が入っていました。
見応えのある、すばらしい作品でしたよ。

たしかに横浜方面からだとちょっと遠いですよね。
好評につき、上映館が増えるといいのですが…。
岩波ではしばらく上映していると思うので
もしお時間があるようでしたら、是非ご覧になってみてください☆

投稿: ☆ ryokoさま ☆ | 2012年5月 6日 (日) 17時19分

いつもTBありがとうございます。

英国とオーストラリアがひた隠しにしていたこの事実は本当にヒドいですね。

フランス政府の計らいで、フランス警察がユダヤ人を連行した事実を描いた「黄色い星の子供たち」も政府がひた隠しにし、後に大統領が政府の責任を認めたわけです。
こういった事実が次々に明かされるなんてとても哀しいことだと思います。

さてレンの告白には鳥肌がたちました。

投稿: margot2005 | 2012年5月 6日 (日) 18時00分

☆ margot2005さま ☆
コメント&TB、ありがとうございます。

強制児童移民については、今回初めて知って
驚くと同時に衝撃を受けました。
1970年代というと、ほんとうについ最近までの話ですものね...。

私も今回のことで、フランスのヴェルディヴ事件を思い出しました。
黒い歴史があったことは不幸ですが
政府には今からでも、残された孤児たちを支援することに
全力を尽くして欲しい、と心から願います。

聖職者が組織的にこうした犯罪を行っていた、というのが
なおのこと恐ろしいです。

投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2012年5月 7日 (月) 17時36分

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