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マーガレット・ハンフリーズ 「からのゆりかご」

映画「オレンジと太陽」の原作、マーガレット・ハンフリーズ著「からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち」(Empty Cradles)を読みました。1890~1970年頃まで、イギリス政府がオーストラリアはじめ英領植民地に向けて秘かに行っていた、強制児童移民の実態を明らかにしたノンフィクションです。

Empty_cradles

著者のマーガレット・ハンフリーズは映画のモデルとなったソーシャルワーカー。1986年、ある女性から「私が誰か調べて欲しい」と依頼されたことがきっかけで、はじめてこの問題の存在を知り、以来植民地に送られた孤児たちとイギリスに残された家族とを結びつける活動を続けています。

詳細については、映画の感想をご覧いただけたらと思います。
movie 「オレンジと太陽」

映画が取り上げていた孤児たちに関するエピソードはどれも本書に登場しますが、両者に内容のギャップはなく、ジム・ローチ監督が事実を過度に脚色することなく、まっすぐな思いで映像化されたことが伝わってきました。

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本の内容は、映画でも取り上げられたオーストラリアにおけるケースが中心ですが、それ以外にニュージーランド、カナダ、ローデシア(現ジンバブエ)といった植民地にも、イギリスから孤児たちが送られたことが書かれています。

どうしてこのようなことが行われたのでしょう。映画では、その理由を「植民地における人口政策」としていましたが、本ではもっと踏み込んだ内容に触れていました。そこにはオーストラリアの地理的背景が大きく関わっていたようです。

つまりオーストラリアは地理的にアジアに近いため、近隣のアジア諸国から大量の移民がやってきて”アジアの国”になってしまうことを恐れたのです。折りしも世界大戦で日本が太平洋で暴れまわっていた時期とも重なります。

アジアの脅威から守るため、オーストラリアではイギリス本国から計画的に白人を移住させる必要がありました。それには、抵抗できない子どもたちを言いくるめて連れてきてしまうのが一番手っ取り早かったのです。イギリス側も、孤児たちにかかる福祉費を削ることができるというメリットがありました。

孤児たちの心を考えず、まるで荷物のように扱った両政府。何も知らずにやってきた子どもたちを待っていたのは過酷な労働や虐待でしたが、愛を知らずに育った子どもたちは、成長してからも心の傷は消えず、ふつうに社会生活や家庭生活を送ることを難しくしているそうです。

ローデシアの場合は少し事情が違っていました。ここに送られた子どもたちは指導層として育てられたため、現地の子どもたちと違って学校にも行き、比較的裕福な暮らしができたようです。それでも故郷と肉親を切り離されたことで、孤児たちは根無し草のような喪失感を抱えているのです。

内容はずっしりと重いですが、マーガレット自身が語ることばには真摯な情熱がみなぎり、ぐいぐい引きつけられました。映画からも彼女の粘り強い働きは伝わってきましたが、読んでよかったと思いました。

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コメント

初めて知りました。が、たしかにやりそうですね、あの国は。アングロサクソンという連中は、有色人種に対してきわめて蔑視的であり、かつ恐れていますから、アジアからの移民への対抗策として子供を使うことぐらい朝飯前でしょう。
実際、17世紀の産業革命以来、子供をもっとも過酷に使い潰してきた国が大英帝国でしたから、むしろ当然なのかもしれません。18世紀、19世紀のイギリスの孤児たちの置かれた境遇の凄まじさは筆舌に尽くし難いものがあります。ディケンズあたりは、その辺軽く濁していますが、イギリスで社会主義運動が盛んになったのも必然だったと思います。
機会があったらぜひ、読んでみたいですね。

投稿: ヌマンタ | 2012年9月 8日 (土) 14時09分

こんにちは。

前の「オレンジの太陽」のセレンディピティさんの記事で私もこの事実をはじめて知りました。原作も読まれたんですね。

映像化作品はドキュメンタリーでない限りはどうしても、脚色されたり、衝撃度をおさえるつくりになるので、本当の実態を知るためには、書籍を読む事が必要ですよね。book

ヌマンタさんも触れられてますが、ディケンズの作品は当時の英国の孤児の置かれた過酷な立場を知る事が出来ます。子供を大切にしようとかそんな気持ちは国として皆無です。戦争にも借りだされてますしね。

歴史を知ると、現代にまで通じる色々な事が見えてくるな・・って思いますよね。think

投稿: ごみつ | 2012年9月 8日 (土) 16時05分

国際社会のほぼ全ての問題の根底にあるのは戦争・・・
この孤児たちの話もアジアの脅威という戦争なんですね。
世界規模で見た時に地域戦がない時期はないそうです。
地球上から戦争がなくなる日が、果たしてくるのでしょうか?
来てほしいですが。。。

投稿: イザワ | 2012年9月 9日 (日) 02時46分

☆ ヌマンタさま ☆
こんにちは。
私もイギリスの強制児童移民の話は
映画を通じて初めて知り、衝撃を受けました。
イギリスでは人権に対する問題意識が古くからあるように
思っていましたが、決してそんなことはないんですね。
しかも数世紀前ならいざ知らず、
つい最近までこうしたことが平然と行われていたとは…
自国の国民を大切にしない大国の傲慢が恐ろしいです。

投稿: ☆ ヌマンタさま ☆ | 2012年9月 9日 (日) 14時08分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
映画がきっかけで、この問題の存在を知ったので
やはり映像の力は大きいな…と思います。
ジム・ローチ監督の作品は真摯に作られていましたが
原作を読むことで詳細を知ることができてよかったです。

今のイギリスを見ると、とてもこういう人権をふみじるような
ことが平気でできる国だとは想像しにくいだけに
衝撃を受けましたが、過去の歴史がそれを裏付けているのですね。
過去に学び、二度とこうしたことが起こらないよう
祈るばかりです…。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年9月 9日 (日) 14時37分

☆ イザワさま ☆
こんにちは。
なにか問題が起こった時に、一番しわ寄せが行きやすいのが
弱い立場の人間、すなわち子どもたちなのかもしれませんね。
この本でも、国家の都合に翻弄される子どもたちの姿が
描かれますが、子どもは宝であり、私たち大人が
是が非でも守らなくてはいけない尊い存在なのだ、と改めて思いました。

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2012年9月 9日 (日) 14時52分

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