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新田次郎 「孤高の人」

山岳小説で知られる新田次郎さんの代表作、「孤高の人」を読みました。少し前に同氏の「八甲田山死の彷徨」を読んで、綿密に調査した事実をもとにドラマティックな物語を作り上げるという作風が私の好みだったので、ほかの作品も読んでみたくなったのです。

2012112901 孤高の人(上)(下)

この小説は、大正~昭和に活躍した実在の登山家、加藤文太郎をモデルにした作品です。加藤は、ずば抜けた脚力をもち日本アルプスの山々を次々と登攀しましたが、命の危険と常に隣り合わせにある冬山を、パーティを組まずに単独で登り続けた異色の登山家でした。

また、当時の登山は特別な装備や同行するガイドが必要で、富裕層のスポーツとされていましたが、加藤は地下足袋をはき、自らの経験をもとに研究、工夫を重ねた手作りの装備とノウハウで山に登ったのが画期的で、それまでの登山界に風穴をあけたと言われています。

この小説は、加藤が残した「単独行」という登山記録をもとに、新田氏が物語をふくらませたものです。加藤以外の人物に関してはモデルとなる人はあっても、事実と異なる部分があるようですが、それを理解したうえで、個性豊かな登場人物たちが作りだすドラマティックな展開を楽しみました。

…とはいえ、上巻の半ばまで、加藤はなかなか山に登りません。>< 大正から昭和にかけての暗い時代背景や、加藤の生い立ち、神戸の造船所で働くようになり、登山をはじめるまでの経緯が延々と綴られていて、少々じれてしまいました。^^;

しかしここで描かれる人間関係が、後半に進むにつれて大きなうねりとなって物語を動かし、悲劇のラストへと一気に加速していきます。加藤はなぜ独りで山に登ったのか。そしてなぜ最後にたった一度のパーティを組んだのか。そこには抗えない運命の力が働いたとしか思えませんでした。

人とのつきあいに不器用な加藤を見ていると、どうにも歯がゆくてならないのですが、自分に厳しく、どこまでも追い込む姿は、まさに孤高の名にふさわしい。なぜ山に登るのか。その答えを探すために山に登る加藤にとって、山は自分と向き合う鍛錬の場だったのかもしれません。

そんな加藤が妻を迎え、人生には山に求めるのとは違う形の、穏やかな幸せがあることを知ります。しかし、運命の悪魔はそばでじっと彼を見つめていたようです…。彼の最後の山行きは、遭難するとわかっているので読むのが辛かったです。読みながら何度も彼を引き止めていました。

それにしても新田文学は、山の描写が息を呑むほどに美しい。それは一方では恐ろしくもあるのだけれど。雲ひとつない青い空に凛とそびえる雪の槍ヶ岳。一度見た人は、その魅力から決して逃れることができないのだろうな…と思いました。

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コメント

今晩は。cherry

新田次郎さん、2作目ですね。
これも面白そうですね。登山家の加藤文太郎さん、はじめて知りました。

私も「八甲田山」と「聖職の碑」を読みましたが、どちらもその取材力と、文章の構成のうまさを堪能しました。

「剣岳・点の記」が買ったまま未読なので、こちらも早く読みたくなってきました。fuji

投稿: ごみつ | 2012年12月 9日 (日) 21時36分

加藤文太郎・・・私も随分前に読んで、その孤独感と
向き合うように踏破していく姿に迫力を感じました。
暫くして、青年漫画誌で連載されていたので、漫画でも
読みましたが、漫画の世界で表現された加藤文太郎は
イメージがまた、少し違っていて楽しめました。
クライマーの見る山の景色は、見てみたい気はします。。。

投稿: イザワ | 2012年12月10日 (月) 02時28分

☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
孤高の人、おもしろかったです。
新田次郎さん、綿密な取材をもとに物語をふくらませる
というスタイルが、どこか山崎豊子さんに通じるところがあって
私好みです。理系らしい視点も好きな理由のひとつかも…。

そして、今「剣岳・点の記」を読んでいます♪
これは、(たぶん)ハッピーエンディングなので
読むのが気が楽です。^^
いつか「聖職の碑」も読みたいです☆

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2012年12月10日 (月) 15時41分

☆ イザワさま ☆
こんにちは。
イザワさんも、「孤高の人」読まれたのですね。
漫画化されていることは、私も今回知りました。
どうやら設定は原作とは違うようですが(舞台は現代でしょうか?)
こちらも気になります♪

冬山の景色は、登った人しか見れないのですものね…。
写真や映像で見るだけでも美しいので
実際に見たら、きっと圧倒されるでしょうね。

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2012年12月10日 (月) 15時49分

敢えて言ってしまうと実際の加藤文太郎はかなりの変人ですよ。私は山屋だったので、単独行の魅力と怖さは知っていますが、あれは通常の社会生活から破綻した人だけが続けられるものだと考えています。
自然がいかに美しくても、単独行で登らねばならぬことはないと思います。でも、加藤にはパートナーとの関係を維持できなかった。この人間的な弱点が、彼をして日本登山界屈指の単独行登山者ならしめたのだから皮肉なものだと私は考えています。

投稿: ヌマンタ | 2012年12月10日 (月) 21時07分

☆ ヌマンタさま ☆
こんにちは。
加藤文太郎さんの変人ぶりは、小説を読んでも伝わってきました。
彼自身は決して孤独を求めていたわけではないようですね。
人との関係をうまく結べず、単独で登っているうちに
結果的に「単独行の加藤」という名前がひとり歩きしてしまった…。

小説によれば、結婚してからの加藤は、ずいぶん人が変わって
明るくなったようです。
その矢先の悲劇…というのが、物語をドラマティックにしていました。

投稿: ☆ ヌマンタさま ☆ | 2012年12月11日 (火) 09時07分

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