「ブルージャスミン」
ウッディ・アレン監督の最新作、「ブルージャスミン」(Blue Jasmine)を見ました。「欲望という名の電車」をアレン流に料理した、笑うに笑えないシニカルなコメディ。主演のケイト・ブランシェットが、虚栄によって転落する女性をみごとに演じます。
ニューヨークで実業家ハル(アレック・ボールドウィン)と結婚し、社交に明け暮れ何不自由ない生活を送っていたジャスミン(ケイト・ブランシェット)は、夫が詐欺罪で逮捕されたことで無一文に転落。サンフランシスコで慎ましく暮らす妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)のもとに転がり込みます。
しかし、高慢でプライドばかり高いジャスミンは、ジンジャーの周囲と何かと軋轢を引き起こします。現状を受け入れられず次第に壊れていくジャスミンは、パーティで出会った政治家志望の外交官ドワイト(ピーター・サースガード)こそが自分を救う存在と信じ、再起をかけて近づきますが...。
ウッディ・アレンが大好きなので楽しみにしていた本作、早速初日に見てきました。ここのところヨーロッパを舞台に、毒ひかえめの軽いテイストのコメディを作り続けていたアレンですが、この作品はかなり辛口。決して愉快な話ではありませんが、物語の運びのみごとさにうならされました。
深刻な状況をシニカルな笑いにのせて描いたコメディながら、ジャスミン転落のきっかけが明らかになる展開にはサスペンスのような衝撃がありますし、次第に壊れていくジャスミンの姿はまさにホラー。苦味の残るエンディングも絶妙で、アレンの真骨頂を堪能しました。
全編を通してジャスミンのいやらしさがこれでもかと描かれますが、憎めないところもあるのです。インテリアのセンスやパーティを仕切る才能があるのは事実ですし、ほんの少し自分をよく見せようとするのは誰にでもあること。”武士は食わねど高楊枝”の心意気も時に必要と思います。
でも、あれだけどん底を思い知って、ようやく人生をやり直せる...というところで、また嘘をつくなんて。これはもう相当重症の虚言癖というほかありません。これから長い人生をともにする相手を、ずっと欺き続けるつもりだったのでしょうか...そんな彼女が気の毒に思えてなりませんでした。
彼女の勘違いは、生まれ育った環境によるものかもしれません。ジンジャーとひとつ屋根の下で、ともに養子として育てられたジャスミンは、美しいというだけで愛されるに値すると信じ込んでしまった...一方のジンジャーは、早くからあきらめる術を身につけてしまったのかもしれません。
ジャスミンと対照的に描かれるジンジャーは、寛容で、たくましさを持ち合わせてはいますが、自分を卑下し、適当に折り合いをつけて生きているところが感じられて、これまた必ずしも共感はできないのです。
アレンはそうした毒針をぐさぐさと観客に投げつつ、ちゃんと自虐ネタも織り込んでいるので憎めない。^^ 狂気の演技で圧倒するケイトもすばらしかったですが、舞台劇のように緊迫した脚本に魅了されました。
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コメント
ウッディ・アレンの切り口は、日本の映画にはないような
切り口でありもないようであるような不思議な世界観と
言う気がします。
とはいっても、そんなに沢山の作品を観たことはありませんが・・・
自宅にプロジェクター、音響を準備して部屋を暗くしてミニシアター的に
して最近レンタルで映画を観ています(笑)
ゼロは目の前で観ましたが、迫力ありました(笑)
投稿: イザワ | 2014年5月19日 (月) 22時41分
セレンさん☆
これ、お見事!と言うべき作品でしたねー
確かにアカデミー賞主演女優賞でした。
女性なら多少はどこか自分を鏡に映した部分もあるのではないでしょうか。
そんな苦いテイストが効いた見事なコメディでしたね☆
投稿: ノルウェーまだ~む | 2014年5月19日 (月) 23時35分
☆ イザワさま ☆
こんにちは。
ウッディ・アレン、他のどの監督さんにもない
独特の世界観がありますね。
台詞回しの妙といい、ほんとうに天才だな~と思います。
大好きな監督さんです。
ご自宅にシアターシステムを作っていらっしゃるとは
すばらしいですね!
コーク&ポップコーンか、はたまたワイングラスを手に
極上の時間がすごせそうです☆
投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2014年5月20日 (火) 10時12分
私もウッディ・アレン好きなので
この作品も気になっています。
「ヤングアダルト」でシャーリーズ・セロンが”見栄ばかりのイタい女”を熱演していましたが
これもそんな感じかしら?
あれは救いがなくって最後までつらかったので
こちらも観るのをちょっと躊躇してしまいます。
投稿: zooey | 2014年5月20日 (火) 10時22分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
きつ~い作品ですが、おもしろかったですね!
ケイトの演技もみごとでした。
とんでもないジャスミンですが、憎みきれないところがありましたね。
あ~この思考回路わかる、とか笑えない部分もあったりして...
そんな人間の本質をついた、みごとなコメディでした。
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2014年5月20日 (火) 10時35分
☆ zooeyさま ☆
こんにちは。
ブルージャスミン、おもしろかったですよ!
zooeyさんには是非お勧めしたいです。
「ヤングアダルト」は見ていないのですが...
「ブルージャスミン」もケイトのイタさが炸裂していますが
共感とまではいかなくても、どこか憎みきれないところがあるんです。
そのさじ加減が絶妙でした。
後味は決していいとはいえませんが...よかったらご覧になってみてください。
投稿: ☆ zooeyさま ☆ | 2014年5月20日 (火) 10時45分
こんにちはー。
わぁ、私もこれ見たいと思っています。
劇場に行けるかどうかわからないけれど…。
ところで、この前、こちらのブログ記事を参考に、
夫が何か映画見に行きたいなーと言っていて、
「チョコレートドーナツ」をひとりで見たようですよ。
夫婦でいつも参考にさせていただいています。
ありがとうございます♪
投稿: linen | 2014年5月20日 (火) 11時13分
こんにちは!
すごく良さそうですね、この映画!
ウッディ・アレンが「欲望という名の電車」をどうアレンジしてるのか、ものすごく気になります!
没落南部貴族の設定を、落ちぶれたセレブに設定しなおしてるんですね。
ケイト・ブランシェットの演技が迫力ありそうだな~。
そう言えば、映画版の「欲望~電車」は、ヒロインがヴィヴィアン・リーだったので、それこそ没落して狂気に陥ったスカーレット・オハラみたいで迫力ありました~。
見たい、見たい!!
投稿: ごみつ | 2014年5月20日 (火) 14時49分
☆ linenさま ☆
こんにちは。
linenさんもブルージャスミン、気になっていらしたのですね。
きつ~い話ではありますが、それほど深刻にならずにも見れて
特に女性には楽しめると思います☆
お時間がありましたら♪
ご主人様、チョコレートドーナツをご覧になったのですね。
こちらもすばらしい作品でした。
参考にしていただけたなんて恐縮です。
こちらこそありがとうございます☆
投稿: ☆ linenさま ☆ | 2014年5月21日 (水) 09時05分
☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
ブルージャスミン、おもしろかったですよ。
お時間がありましたら是非。
アレンが公言しているわけではないのですが
批評家の間では「欲望という名の電車」と比較されているようです。
それと、モデルといわれている事件もあるようですよ。
「欲望~」はちょうどDISCASで借りてて、今家にあります。^^
こちらも見るのが楽しみです☆
投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2014年5月21日 (水) 09時13分
ウディ・アレン映画も好きだし、ケイト・ブランシェットもお気に入り女優の一人だし...で楽しみにしていた一作です。
ブルーなジャスミン役のケイトは最高でした。
オスカーも当然の演技でした。かつてカメレオン女優という名が付けられていたケイト・ブランシェットはどんな役もぴたりとハマる素晴らしい女優だと思います。
ジャスミンとジンジャーの対比が面白かったです。
ウディ・アレンは女優を際立たせるのが上手いなぁというも感じますね。
投稿: margot2005 | 2014年6月 3日 (火) 23時02分
☆ margot2005さま ☆
こんにちは。
ウッディ・アレン大好きなので楽しみにしていましたが
今回も期待を裏切らず、おもしろかったです。
ケイト・ブランシェット、いや~な女をみごとに演じていましたね。
ニューヨークでの輝いていた時代から
どんどん壊れていくところなど...迫真の演技でした。
サリー・ホーキンスも上手い女優さんですよね。
ジャスミンとジンジャー、二人の個性と
彼女たちを取り巻く人たちの違いもよく出ていて
絶妙のキャスティングでした。
投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2014年6月 4日 (水) 08時02分
セレンディピティさま
この妹は私に近いかも、ですね。適当に折り合いをつけている・・・。
とにかく、私は修道院の生活を理想としており、このヒロインのような生き方が全く理解できないので、鑑賞が困難でした。1か月前から英国の19世紀の古典で「虚栄の市」という長編大衆小説を読んでいます。このヒロインも、おなじく非常に理解困難です。ウディアレンはどうしてこういう女性心理がよくわかるのかしらね。彼自身の中にそういう要素があるのかな?
投稿: Bianca | 2017年3月15日 (水) 18時55分
Biancaさま、こちらにもコメントをありがとうございます。
ジャスミンは決して共感できるキャラクターではないですが
自分を少しよく見せようとするのは多かれ少なかれ
誰にでもあることかな?とも思うのです。
ただ彼女の場合は行き過ぎで、完全に病気ですね。
「欲望という名の電車」のヒロインに抱いたような同情の余地もなく...
本作のアレンは、なんと残酷だろうと思いました。
投稿: ☆ Biancaさま ☆ | 2017年3月16日 (木) 15時30分