「her/世界でひとつの彼女」
スパイク・ジョーンズ監督、ホアキン・フェニックス主演のSFロマンス、「her/世界でひとつの彼女」(Her)を見ました。近未来のロサンゼルスを舞台に、人工知能とのラブストーリーを描きます。
別居した妻(ルーニー・マーラ)と離婚話が進み、満たされない日々を送るセオドア(ホアキン・フェニックス)は、人工知能を搭載したOSを購入。サマンサ(スカーレット・ヨハンソン)と名乗る彼女とのやりとりは楽しく、セオドアはいつしか彼女に夢中になっていきます...。
アメリカで高い評価を得て、アカデミー賞で脚本賞を受賞した本作。人工知能との恋愛というテーマに???と思いながら、期待もあって見に行きました。正直、映画を見ている時には今ひとつ乗り切れなかったのですが、後になってあれこれ考えさせられる作品でした。
サマンサは優しくてユーモアがあって、時に嫉妬したり、甘えたりもする魅力的な女性。彼女とすごす時間は楽しく、話がはずみます。セオドアはポータブル端末に彼女を入れ、どこへでも連れていきます。今までの空虚な毎日が、サマンサのおかげでばら色に彩られていきます。
でも...サマンサは綿密にプログラミングされたOSであり、セオドアが潜在的に望んでいることに対して、ただ反応しているにすぎません。それを理解して楽しんでいるうちはいいのですが、いつしか現実との境が見えなくなってサマンサにのめり込んでいくセオドアに、違和感を覚えました。
この違和感こそが、監督が伝えたかったことなのでしょうね。サマンサは、今でいうiPhoneのSiriのようなもの。将来、AIのクオリティがますます高くなってリアルな人間の脳に近づき、自分が期待する通りの反応を見せてくれるようになったら...人はその魅力に抗しきれるでしょうか。
セオドアの”手紙の代筆人”という職業がまたシニカルです。彼は例えば亡くなった人の代わりに、遺された人のために心のこもった手紙を書くエキスパートです。彼はビジネスライクにそれをこなしますが、実は彼のやっていることは、サマンサと同じなのですよね...そこに、人間とAIという違いはあるものの。
私は、等身大の人形との恋を描いたライアン・ゴズリング主演の「ラースと、その彼女」を思い出しましたが、セオドアが心の傷を乗り越えるために、心のよりどころとなるサマンサは必要な存在だったのだ、と思います。彼が仕事で多くの人たちを、彼のことばで支えたように。
昔、解剖学の養老孟司先生が「これだけ科学が発達しても、人間は大腸菌ひとつ作ることができない。」とおっしゃっていたことが印象に残っています。AIがどれだけ進歩したとしても、決して人間の心には及ばない。
物語の結末はセオドアにはほろ苦いものでしたが、それが現実を見つめ直すきっかけを与えてくれた気がして、私はなんだかほっとしました。
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コメント
セレンさん☆
最近の映画のテーマはやはり人工知能なのですねぇ。
気になっている映画ではありましたが、まだ観てない作品です。
主人公が現実を見つめ直すようになるのは、とてもいいことですね。
ただ、最近はお話しするロボットなどどんどん出てきて、それが痴呆の老人の相手をしてくれたりと・・・
いいことなのか、どうなのか、現実を見つめ直すのにも勇気がいりそうです。
投稿: ノルウェーまだ~む | 2014年7月10日 (木) 23時53分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
公開中の「トランセンデンス」も人工知能の映画ですよね~
今はAI流行りですね。^^
この作品、気になっていたので見に行きましたが
私自身はそれほどおもしろいとは思わなかったので
あえてお勧めはしないかな...
でも後からあれこれ考えさせられる作品でした。
ちょっと哲学的かも。
老人福祉施設でAI搭載のぬいぐるみが癒しになっているようですが
ちょっと複雑な気持ちになりますね...
主人公のセオドアのように、傷を乗り越えるために
一時的に...というのでしたらわかるのですが。
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2014年7月11日 (金) 08時08分
こんばんは。
近未来、十分起こりうることだと思います。
生身の人間は思うようにはならないもの。
その点、サマンサは期待通り、いやそれ以上先回りして満足させてくれます。
一時的のつもりが・・・セオドアのように抜き差しならないことになりそうです。
果たしてセオドアは立ち直れるでしょうか?
投稿: ryoko | 2014年7月22日 (火) 23時49分
☆ ryokoさま ☆
こんにちは。
近未来に起こり得るのかな~
う~ん、認めたくないなー(笑)
どんなに期待以上に満足させてくれたとしても
それが膨大なデータをもとにはじきだされた行動だとわかったら
それだけで気持ちが覚めてしまいそうです。
でもそれも今が心身ともに健康だから...かもしれないですね。
心のバランスを失った時には、拠り所としてしまうかもしれない。
それでも人間が作るAIが、神が作る人間に勝ることはない
って信じたいです。
投稿: ☆ ryokoさま ☆ | 2014年7月23日 (水) 15時59分