「めぐり逢わせのお弁当」
インドの新星リテージュ・バトラ監督の長編デビュー作、「めぐり逢わせのお弁当」(Dabba / The Lunchbox)を見ました。ムンバイを舞台に、間違えて配達されたお弁当がつなぐ孤独な男女の心の交流を情感豊かに描きます。
インド映画は今まであまりなじみがなかったのですが、レビューでの評判がよかったので、期待して見てみました。インド・フランス・ドイツ合作映画で、インドをはじめヨーロッパで大ヒットした作品です。
舞台はインドですが、インド映画特有の歌と踊り、原色あふれるエネルギッシュな華やかさはありません。互いに惹かれあう男女が、一度も会うことなく別々の道を行くところなど、ヨーロッパ映画のような繊細な手触りを感じる作品でした。
高度経済成長のただ中にいて、今、最もエキサイティングな国でもあるインドですが、その急速な変化によって生まれるさまざまな歪みや、社会問題もさりげなく伝わってきて、現在のインドの姿を身近に感じることができました。
冒頭、キッチンでお弁当を作るイラが、アパートの上階に住むおばさんに話しかけ、2人の間で窓越しにバスケットが行ったり来たり。このやりとりだけで、なんだかすてきな映画になりそう...とわくわくしてきました。
インドのムンバイには、ランチタイムに合わせてお弁当を届けてくれるシステムがあるらしい。朝、出かける時に持たせた方がラクな気がしますが、通勤の邪魔にならない、お弁当を作るために早起きしなくていい、温かいお弁当が届けられる(中身はカレーですし)と、いろいろメリットがあるのでしょうね。
お弁当を集荷、配達するのはダッバーワーラー(弁当配達人)とよばれるおじさんたち。なんともアナログなシステムですが、誤配送の確率がわずか600万分の1というから驚きです。その奇跡のような偶然から、小さな物語が生まれました。
妻に先立たれ、定年を間近に控えるサージャンと、夫が企業戦士で家庭を顧みないイラ。ともに孤独を抱えていた2人ですが、イラのお弁当が間違ってサージャンのもとに届くようになったことがきっかけで、2人はいつしか手紙のやりとりをするようになります。
最初はほんの一言のメモだったのが、いつの間にか互いの悩みや心のうちまで打ち明けるまでに...。最初はいかにも偏屈で気難しそうに見えたサージャンが、いつの間にか表情が柔らかくなり、後任の男性とも軽口をたたくようになっていく過程がとてもいい。
なーんだ、ほんとうはおもしろいおじさんだったんだ、と思ったら、不気味なジョークを聞いて、この俳優さんが「ライフ・オブ・パイ」の人だ!と思い出しました。決してかっこよくはないのですが(失礼)、なかなか味のある俳優さんです。^^
このままどうなるのかな...と思いましたが、サージャンがふとした瞬間に自分の中の老いに気づき、良識を取り戻す展開に、切なさと安堵を覚えました。まぼろしのようなラブストーリー、余韻の残るラストが印象的でした。
映画を見ながら、インドではごく親しい人とはヒンディー語で話すけれど、ビジネスやよそゆきの会話では英語を使うんだなーと知りました。(サージャンとイラのやりとりも英語だった) インドには20以上もの言語があるといいますから、英語が共通語になっているのかもしれませんね。
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コメント
ご無沙汰してしまいすみません。
7月、8月と、どういう訳か提案していた大きめの案件が
立て続けに受注でき、しかも昨年DVDを作らせて頂いた
クライアント様からリピートのお話も頂き、更に普段より
ポートレート撮影も多く、こんな8月は初めてでした。
引き続き、9月10月11月と受注案件の撮影、編集が
続きますが、とりあえず一息^^
事務所で編集作業の際には、ブログ更新、訪問ができそうですので
また、よろしくお願いいたします^^
インド映画というと、すぐ踊りだす、といったイメージでしたが、
色々ありますね。流石に映画大国なんですね。
投稿: イザワ | 2014年8月28日 (木) 01時25分
☆ イザワさま ☆
お忙しい中、ありがとうございます。
ご無理をなさらないよう、お体お大事になさってくださいね。
投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2014年8月28日 (木) 07時51分
セレンさん☆
うわーうわーこの映画、いいですよねぇ。
私もすごく気になってました。
最近のインド映画のいいところは、しっとりとした大人を主人公にした映画が多いことですね。
ほのかな恋心を抱きながら大人の良識で…なんて、ほんと素敵!
それにしても、肝心のご主人はお弁当が届かなくて平気だったのかな?
投稿: ノルウェーまだ~む | 2014年8月28日 (木) 09時50分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
この映画、まだ~むさんも気になっていらっしゃいましたか。
地味ながら、なかなかすてきな作品でした。
説明不足でしたが^^
サージャンはふだんはお弁当屋さんからデリバリーしてもらっていて
そのお弁当屋さんのお弁当と、イラの作るお弁当が
入れ違って配達された、という設定でした。
イラのご主人は、お弁当の味付けが変わったことにも気づかず
「毎日カリフラワーを入れるのはやめてくれ。(*`ε´*)ノ」
とプンスカ怒っていましたよ。(笑)
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2014年8月28日 (木) 13時50分
こんにちはー。
わぁ、私もこの映画、予告編を観て気になっています。
インド映画といえば、急に大勢が踊りだすイメージしかなくて、
それ以外の“普通”のもあるんだーと思いました。
またシネスイッチ行こうかな…(ネットでチケットが取れず不便ですが)
投稿: linen | 2014年8月29日 (金) 10時13分
☆ linenさま ☆
こんにちは。
この映画、地味ながらしっとりとすてきな作品でしたよ。
(私のような)インド映画初心者にも
取っ付きやすく、楽しめました。
お時間がありましたら☆
投稿: ☆ linenさま ☆ | 2014年8月29日 (金) 15時57分
こんばんは。
最近インド映画の上映がとても多いですね。「マダム・イン・ニューヨーク」もスゴく素敵なインド映画でしたが本作もとても素敵でした。
そうヨーロッパでもヒットしたとういうのも頷けますね。
>まぼろしのようなラブストーリー、余韻の残るラストが印象的でした...
ホントまぼろしのようでした。さてあの後、広大で人の多いインドで二人が出会うなんてあり得ませんが...なんとなく出会ってしまうかも?なんて想像してみました。
投稿: margot2005 | 2014年9月16日 (火) 00時11分
☆ margot2005さま ☆
こんにちは。
インド映画、日本でも人気が出てきてますね。
これまでインドを舞台にした映画はいくつか見ていますが
インドの監督さんによる映画、私はこれが初めてかもしれません。
これから少しずつ、いろいろ見ていきたいな~と思いました。
そうですね。
もしも2人があのカフェで会ったら
いきなり現実に引き戻されてしまったかもしれないですし
あれでよかったのかな...?
それでも2人がお互いに新しい人生を踏み出す
きっかけになったのですから。
投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2014年9月16日 (火) 09時46分