「ビッグ・アイズ」
「シザーハンズ」、「チャーリーとチョコレート工場」など、ダーク・ファンタジーの名手で知られるティム・バートン監督が、60年代のポップアート界に衝撃を与えた実在の事件を描いた作品、「ビッグ・アイズ」(Big Eyes)を見ました。
大きな目の悲しげな表情の子どもを描き、1950~60年代に大ブームを起こしたウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)。しかし実際に描いていたのは、妻マーガレット(エイミー・アダムス)でした。ウォルターはマーガレットを恐怖で支配して絵を描かせ、ことば巧みに世間を欺いていたのです...。
この映画、どうしても昨年日本を騒がせた某作曲家のゴーストライター事件と重ねて見てしまいました。どうしてこんなことが起こり得るのか、不思議に思いますが、最初の小さな嘘が、真実としてひとり歩きをはじめると、気づいた時には取り返しのつかないことになってしまうのでしょうね。
本来、マーガレットは被害者、ウォルターは加害者のはずだったのに、いつの間にか共犯者ということにされ、ばれたら困るのはおまえだぞ、とばかりにマーガレットは精神的に追い詰められていきます。
内気なマーガレットと違い、ウォルターは弁が立つし、商売上手。人気があっても人はなかなか原画を買わないとわかると、ポスターやポストカードを印刷して売りまくります。当時のアメリカの大量消費社会という時代の波をうまくつかまえる才覚が彼にはありました。
女性のアーティストがまだなかなか認められなかった、という当時の事情もありました。そういえば、ほぼ同時代を生きた日本画家の上村松園も、ロダンの弟子のカミーユ・クローデルも、女性であるがゆえに偏見にさらされ苦労したと、小説や映画で読んだ/見たことがあります。
「女の芸術家は評価されない」というウォルターに、「ジョージア・オキーフがいるわ」と言い返すマーガレット。草間彌生さんが、芸術の道に進むことをご家族に反対され、思い余ってオキーフに手紙を書いたというエピソードを思い出しましたが、オキーフは当時の女性芸術家の希望の星だったのだな、と再認識しました。
(左から奈良美智、ティム・バートン、モディリアーニの作品)
マーガレットの大きな目の作品を見ると、奈良美智さんが描くふきげんな女の子に通じるものを感じますし、ティム・バートンの絵も彷彿とさせます。追い詰められたマーガレットの幻想に出てくる、デカ目メイクをした人たちのシーンは、ティム・バートンのいつもの映像世界そのもので楽しかった。^^
マーガレットは一時期、モディリアーニ風の切れ長の目の女性を描き、サインも変えて、ウォルターへの”小さな抵抗”を試みますが、その絵は人々には受け入れられませんでした。やはりマーガレットが生み出した大きな目の作品こそが、彼女のオリジナリティであり、アートとしての魅力になっているのでしょうね。
それにしても、映画を見てウォルターには腹が立つやら、あきれるやら。マーガレットの絵のみならず、パリの風景画までインチキだったなんて。彼は2000年に亡くなるまで、マーガレットの絵は自分が描いたものだと言い続けていたそうです。
スキャンダルのために表舞台から去っていたマーガレットですが、再婚して幸せに暮らし、今も絵を描き続けていらっしゃるとか。今回の映画化で、改めて真相が注目されることになってよかったです。日本人にとっては、ある意味とてもタイムリー?な作品でした。
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コメント
確かにウォールターの大きな目の女の子の絵は
奈良美智やティム・バートンの絵に似ていますね。
ティム・バートンの才能は凄いと思うのだけど
奥さんのヘレナ・ボナム=カーターにヘンな扮装をさせるのはやめて欲しい。
私にとってのヘレナは「眺めのいい部屋」のお嬢さん役のイメージなのに
「不思議の国のアリス」ではたまげました。
投稿: zooey | 2015年2月 3日 (火) 17時59分
こんばんは! (:。)ミ
これも面白そうですよね~。
ティム・バートンだから、かなり面白く出来てそうだし、題材もビックリですよね、これ。
確かに最初についてしまったウソが、取り返しのつかない事態になってしまったのでしょうが、結局、真相が世の中に知られる様になったのは、夫の死後なのかしら?
そんな背景も含めてとても気になるので、是非見てみたい作品です!
(:。)ミ
投稿: ごみつ | 2015年2月 4日 (水) 00時16分
☆ zooeyさま ☆
こんにちは。
マーガレットの作品は、正直あまり好みではないのですが
ひと目見て彼女の作品だ!とわかる強烈な個性がありますね。
ヘレナ・ボダム=カーターとティム・バートンは
先日、破局が報じられましたね...
彼女自身、あのコスプレ?を楽しんでいるようなところがありましたが
これからは落ち着いた役どころが増えるかもしれませんね。
投稿: ☆ zooeyさま ☆ | 2015年2月 4日 (水) 10時51分
☆ ごみつさま ☆
きゃ~出た ┗(^o^ )┓=3 (:。)ミ
ティム・バートンには珍しく実話に基づく話でしたが
ちょうどタイムリーな話題ということもあり興味深く見れました。
ファンタジーより、私はこの方が好きかも。^^
映画の内容に触れますが...
夫のモラ・ハラに耐えかねたマーガレットは家を出て裁判を起こし
どれも彼女が描いた作品だ、と決着がつくのです。
にもかかわらず、ウォルターは亡くなるまで自分が描いたと
言い続けていたとか...誰も信用しなかったでしょうけどね。
ただ、どんなにいい作品であっても、それを広める人がいなければ
見出されないのもまたたしかなんですよね...
現代アートなんて、それこそ見る人の価値観はさまざまですし。
そんなあれこれも、考えさせられました。
投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2015年2月 4日 (水) 11時00分
セレンさん☆
気になっていたティムバートンの作品でしたが、結局観に行かなかったデス
今では近代アートとして、イラスト+αな作品も多いですけど、どうしてもアートとしては絵が私の好みじゃなくて…
日本ではとってもタイムリーな話題でしたねー(笑)
私、昨年末に決まった今年の漢字が、ゼッタイ「偽」だと思ったのだけど・・・
投稿: ノルウェーまだ~む | 2015年2月 5日 (木) 00時09分
ゴーストライターは、見つかっていないだけで、
他にも例がありそうだ・・・なんて思ってしまいそうな
事件でした。
売り出し方はとても重要だと思います。
芸術的才能があっても自分の売り込み方を知らずに
埋もれて行った芸術家も多くいそうな気がします。
時流にのって、亡くなった後に著名になる人もいますね。
時代の流れを読む目と、プロモーション力、そして才能が
上手くかみ合うと、そこに時代の寵児が生まれ、将来的には
クラシックとして残っていくのかもしれませんね。
投稿: イザワ | 2015年2月 5日 (木) 01時43分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
マーガレットの作品、私もあまり好みではないのですが
この映画は、アートというよりは人間ドラマにフォーカスしているので
おもしろく見れましたよ。
クリストフ・ヴァルツの怪演がみごとでした!
私はどちらかというとファンタジーが苦手なのですが
これは実話に基づく作品なので、例の事件と重ねつつ?
興味深く見ることができました。^^
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2015年2月 5日 (木) 08時42分
☆ イザワさま ☆
こんにちは。
ゴーストライターとはちょっと違いますが...
アメリカのビジネス書や自伝などは、プロのライターが
書かれていることが多いですね。
ちゃんと謝辞で紹介されているので問題ないですし
プロのライターが書いた方が読み応えがあるのはたしかですが。
今は実力もさることながら、プロデュース力(売り出し方?)も重要ですよね。
クラシック音楽の演奏家も、なぜか美形の方が多い気がします。^^
投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2015年2月 5日 (木) 08時54分
こんばんは。
そう。ティム・バートン初めての実話。でもこの主人公となる大きな目の女の子が、なんとなくバートンの描き出す世界と重なって、ホントに実話なの...なんて思ったりしましたね。
>某作曲家のゴーストライター事件...
これは誰しもが思う事ですね。わたしもすぐに思い浮かべました。
マーガレットの描いたモディリアーニ風好きなんですけど、やはり受けなかったようですね。大きな目の女の子のイメージが強過ぎたのでしょうか?
でもハリウッドのセレブにまで愛されたなんて、アメリカでは大ヒットしたのも頷けます。
投稿: margot2005 | 2015年2月13日 (金) 23時06分
☆ margot2005さま ☆
こんにちは。
マーガレットの描く大きな目の女の子は
どことなくティム・バートンの世界に通じるものがありますね。
そんなこともあって、ティムはこの実話を映画化したのかな...?
なんて思いました。
モディリアーニ風、私もすてきだと思いましたが
オリジナリティがないと思われたのかな?
大きな目の作品は、ひと目で彼女の作品だとわかる
強烈な個性がありますね。
投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2015年2月14日 (土) 01時20分