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グローリー/明日への行進

アフリカ系アメリカ人の選挙権取得をめざすキング牧師たちの奮闘を描いた歴史ドラマ、「グローリー/明日への行進」(Selma)を見ました。黒人女性監督のエヴァ・デュヴァネイがメガホンをとり、オプラ・ウィンフリーとブラッド・ピットが製作に名を連ねています。

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1964年に公民権法が成立し、キング牧師(デヴィッド・オイェロウォ)がノーベル平和賞を受賞したのちも、黒人の有権者登録はいまだ進まない状況でした。業を煮やしたキング牧師は、翌1965年3月7日、アラバマ州セルマから州都モンゴメリまでを歩く、抗議のデモ行進を計画します。

しかし事前にFBIからこの計画を知らされた州知事(ティム・ロス)は、警察隊を派遣し、デモ隊を暴力で制圧します。この映像が”血の日曜日事件”として全米に報道されたことで、白人を含む25000人もの賛同者がセルマに集合、運動は大きなうねりとなっていきます...。

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アフリカ系アメリカ人(以下黒人)の公民権運動にはいくつもマイルストーンがありますが、これは”黒人の選挙権取得をめざす”ことにフォーカスした作品。奇をてらわない誠実な作りですが、歴史が動く瞬間はただそれだけでドラマティックで、力強いメッセージが伝わってきました。

映画は黒人教会が爆破され、4人の少女たちが犠牲になる事件からはじまります。はからずも先日チャールストンで起こった黒人教会銃乱射事件がオーバーラップして胸を突かれましたが、あれから50年、オバマ大統領の現代においても、卑劣な事件が後を絶たない現実に、人種差別問題の根深さを思いました。

そしてチャールストンから世界に感動を与えた、犠牲者の遺族たちの”犯人を赦す”という尊いメッセージは、信仰の力ももちろんありますが、キング牧師が生涯をかけて貫いてきた非暴力の思想が、今も受け継がれていることの証だと、本作を見て確信しました。

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1964年に公民権法が成立したものの、黒人の選挙権はないに等しく、白人の黒人に対するヘイトクライムは依然としてありました。暴力をふるった白人が逮捕され裁判にかけられても、陪審員は全員白人なので、何をしても無罪がまかり通る状況だったのです。

まるで「アラバマ物語」(1962)そのものですが、この映画が当時大ヒットしてアカデミー賞を受賞し、グレゴリー・ペック演じる勇気ある弁護士がアメリカの良心として賞賛されたにもかかわらず、現実はまるで違っていた...その矛盾に愕然としました。

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キング牧師はジョンソン大統領(トム・ウィルキンソン)に訴え続けますが、のらりくらりと協議は進まず、影ではFBIも動いていた...そして起こった血の日曜日事件。でもマスメディアに良心が残っていたのがせめてもの幸いでした。ひとつの映像が人々の心を動かし、それが世界を変えることになったのですから。

良心に突き動かされ、命の危険も顧みずに集まった人々。黒人と白人が肩を並べて歩く姿に、キング牧師の夢の実現に大きな一歩が踏み出されたことを思い、胸が熱くなりました。

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映画では(物語の演出上?)キング牧師と敵対する存在として描かれていたジョンソン大統領ですが、実際には公民権法を成立させ、その後もキング牧師とは何度も対話を重ね、黒人の地位向上のために尽力したことを書き添えておきます。

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コメント

セレンさん☆
手堅い映画ですね。
私も公開されたら観よう!と思っていましたがまだ行けてないです。
こうした地道な活動で人権を少しずつ得られていってても、未だに白人警官に殴られたり撃たれたりという事件など後を絶たないのが哀しいですね。
そんな事をしている間にも、ISなど途方もない人たちが現れたり、何故みんな仲良く出来ないのかしら?といつも思ってしまいます。

投稿: ノルウェーまだ~む | 2015年7月 1日 (水) 11時43分

☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
エンタメ性は少ないですが、題材がドラマティックで
引き込まれました。誠実に作られたいい作品でしたよ。

この時代から50年経ち、黒人の血を引くオバマ大統領が誕生する
世の中になっても、人間の根っこにある意識を変える
というのはなんて難しいことなのでしょうね。

それでもISと違って非暴力であっても、こうして世界を
変えていけるということに、大きな希望を与えられました。

投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2015年7月 1日 (水) 16時18分

こんにちは。
確かに手堅い作品でした。
そして、これまで虐げられてきた黒人達の力強さが、キング牧師の非暴力のスタンスとともに印象的でした。
こういう真面目な作品をもっと積極的に観たいな、と思いました。

投稿: ここなつ | 2015年7月 1日 (水) 19時37分

☆ ここなつさま ☆
おはようございます。
真摯な思いの伝わってくるいい作品でしたね。

非暴力を貫くというのは難しく、勇気ある行動ですね。
彼らの心の強さに敬服しました。

まじめに手堅く作られた作品ですが、歴史が動いた瞬間が
ドラマティックに描かれていて引き込まれました。

投稿: ☆ ここなつさま ☆ | 2015年7月 2日 (木) 08時18分

アメリカにおける人種の問題は根深いものがありますね。
私の場合、頭では理解できても、お恥ずかしいですが、
感覚的にどこまで理解できているか自分でも疑問です。
以前、観た「42」は数々の差別の中、黒人初の
メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンと白人オーナー
リッキーの支えの話は感動的でした。
グローリーも興味深い映画です。

投稿: イザワ | 2015年7月 3日 (金) 00時51分

☆ イザワさま ☆
おはようございます♪

誰しも自分と違うものを受け入れられない心というのは
あると思うのですが、それを暴力でねじ伏せようとするのは
許しがたいですね。

「42」もいい作品でしたね。
今回の映画もですが、黒人のみならず理解ある白人の助けがあってこそ
問題解決に向けて大きく前進するのだなあと思いました。

投稿: ☆ イザワさま ☆ | 2015年7月 3日 (金) 08時55分

私この作品、今回の旅行の飛行機の中で観たのですが
音声トルコ語、字幕英語という恐ろしい状況で
見事に途中で寝落ちしてしまいましたw
しかし一応観てしまったので
改めて映画館に行く気にもなれず…
飛行機映画ってこういう点、困っちゃいますよね?
セレンさんの解説で少し納得した気分です。

投稿: zooey | 2015年7月 4日 (土) 09時14分

☆ zooeyさま ☆
お帰りなさい!
毎日ニュースを見ながら、どうしていらっしゃるか案じていました。
早々のコメント、ありがとうございます。

zooeyさんは、飛行機でご覧になったのですねー。
真摯に作られたいい作品ですが
たしかに旅先で見るのはちょっと辛いかも。^^;

いつか機会がありましたら...☆

投稿: ☆ zooeyさま ☆ | 2015年7月 4日 (土) 16時11分

こんばんは。

今でも白人アメリカ人のアフリカ系の人々への偏見って終わらないですよね。
60年代、偏見の固まりだった白人の一部の人々がキング牧師に賛同して行進をした姿はホント感動でした。

キング牧師の姿は色んな映像で見ているのですが、演じたデヴィッド・オイェロウォは中々マッチしていて良かったです。
そうグレゴリー・ペックの「アラバマ物語」の弁護士頑張ってましたが、周りはそうではなかったようですね。

白人とアフリカン・アメリカンってなんとか歩み寄れないものかといつも思いますが...。

投稿: margot2005 | 2015年7月13日 (月) 21時24分

☆ margot2005さま ☆
おはようございます。

アメリカで、ヘイトクライムの事件が起こるたびに
人の意識を変えることはなんと難しいのだろう...
と思ってしまいます。

あの映画の中で、白人と黒人が肩を並べて行進する場面は
まさにキング牧師のI have a dream...に一歩近づいた瞬間で
ほんとうに感動的でしたね。

アラバマ物語は、ちょうどあの時代に作られた映画で
しかも多くの人たちの支持を得たはずなのに...
理想と現実の違いについても考えさせられました。

投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2015年7月14日 (火) 08時22分

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