黄金のアデーレ 名画の帰還
ヘレン・ミレン主演の実話に基づくヒューマンドラマ、「黄金のアデーレ 名画の帰還」(Woman in Gold)を見ました。監督は、「マリリン 7日間の恋」のサイモン・カーティス。 黄金のアデーレ 名画の帰還 公式HP
1998年。ロサンゼルスに住むマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、亡くなった姉が、戦争中にナチスに奪われた絵画の返還を求めて、オーストリア政府に訴えを起こしていたことを知ります。それはクリムトが描いた叔母の肖像画で、家族の思い出のつまった大切な作品でした。
姉の思いを継ぎ、家族の絆を取り戻そうと、マリアは同郷の友人の息子で弁護士をしているランディ(ライアン・レイノルズ)の助けを借りて、裁判を起こすことを決意しますが...。
クリムトの名画にまつわる物語と、ヘレン・ミレンの演技を楽しみに見ました。映画は、マリアとランディが二人三脚で絵画の返還のために奮闘する過程を、マリアの家族の運命と波乱の人生を織り交ぜながら描いています。
現代と過去、ロサンゼルスとウィーン、時空を超えて紡ぎだされる重厚なドラマに引き込まれました。ウィーンの名家に生まれたマリアを演じる、ヘレン・ミレンの凛とした強さを感じさせる演技に圧倒されました。
裕福で愛情に満たされていた少女時代。そしてオペラ歌手アルトマン氏との結婚。しかし幸せな時代は長く続かず、ユダヤの名家だったマリアの家にナチスが来て、美術品や宝飾品の数々、父が愛用していたストラディバリウスのチェロもすべて奪われてしまいます。
そして気づいた時には国外に逃げ出すこともできなくなっていました。なんとか2名分の飛行機チケットを手に入れたマリアは、断腸の思いで両親に別れを告げて、夫とふたりアメリカへの亡命を果たすのでした。
絵のモデルである叔母のアデーレはナチスドイツ時代の前に亡くなっていて、この肖像画をオーストリア・ギャラリーに寄付すると遺言を残していました。法的に所有権があるとはいえ、マリアがどうしてこの絵を祖国から引き離そうとするのか、最初は正直理解できない部分がありました。
でもマリアにとって、ナチスによる迫害以上に、祖国の政府や隣人たちの裏切りが、何より大きな心の傷として残ったのでしょう。そして祖国を捨て、亡命先のアメリカでの人生の方が長くなり、彼女は今では心からユダヤ系アメリカ人として生きているのだと思いました。
最終的にアメリカ政府の力を借りてオーストリアから絵を取り返したことについては、何かとユダヤに肩入れするアメリカの政治的なにおいも少し感じてしまいましたが、ヘレン・ミレンの迫真の演技に、祖国を奪われ、家族を引き裂かれたマリアの慟哭の悲しみが伝わってきて、いつしか彼女を応援しながら見ていました。
クリムト 「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」
ところで、途中でエスティ・ローダーの話が出たあたりから、あれ?と思ったのですが、この絵は2006年からニューヨークのノイエ・ギャラリー(Neue Galerie)にあり、私も2007年に出会っているのです。 Neue Galerie HP
金色に輝くこの絵画のことはよく覚えていますが、こんな数奇な運命をたどった作品だったとは知りませんでした。
ノイエ・ギャラリーは、クリムトやエゴン・シーレなどのオーストリア、ドイツ美術で知られるこじんまりとした美しい美術館。マリアのウィーンの邸宅にもどこか似ていて、この絵を飾るのにふさわしい空間です。故郷を遠く離れてしまったアデーレですが、マリアの決断を快く理解していると信じます。
ノイエ・ギャラリー (2007/06)
Cafe Sabarsky (ミュージアム・カフェ) (2007/06)
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2017.01.12)
- My Favorite Movies & Books in 2016(2017.01.06)
- クリスマスの食卓 2016(2016.12.25)
- ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(2016.11.28)
- ジャック・リーチャー NEVER GO BACK(2016.11.21)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
感想文、お待ちしていました。
>ナチスによる迫害以上に、祖国の政府や隣人たちの裏切りが、何より大きな心の傷として残ったのでしょう
私もそれを思いました。
だからマリアはあんなにも頑なになったのでしょうね。
リンク先の日記も拝見しました。
ノイエ・ギャラリー、メトロポリタンの近くにあったのですね。
この夏NYに行った時には気がつかずに、惜しいことをしました。
一階のカフェも素敵!
ウィーンのザッハトルテは、私には甘すぎたのですが
こちらは美味しそうです。
投稿: zooey | 2015年12月14日 (月) 21時46分
セレンさん☆
実物をご覧になっていらっしゃったなんて羨ましいです。
こちらのギャラリーのやはり目玉になっているのですね。
どこかマリアの邸宅に似ているとか、オーストリア美術を集めたギャラリーと伺ってすっかり納得しました。
セレンさんのお蔭でスッキリです♪
そしてギャラリーのカフェも本当に素敵~~
ギャラリーのカフェで朝食なんて、夢のまた夢ですわ☆
投稿: ノルウェーまだ~む | 2015年12月14日 (月) 22時06分
こんばんは。
>法的に所有権があるとはいえ、マリアがどうしてこの絵を祖国から引き離そうとするのか....
わたしもそれはスゴく感じましたね。
そしておっしゃるように彼女はアメリカ人(ユダヤ系)という現在の自分の境遇から、是が非でもアメリカに置いておきたかったのかも知れません。
本物をご覧になったとは実に羨ましいです。とびきりゴージャスなクリムトの画。本物はさぞかし迫力があるかと想像します。
投稿: margot2005 | 2015年12月15日 (火) 00時15分
☆ zooeyさま ☆
ありがとうございます。
zooeyさんも書かれていましたが、こういう戦争時での
民衆の変わりようは恐ろしいものがありますね。
リンク先の記事も見てくださって恐縮です。
クリムトのアデーレ、すばらしかったのですが
こういうエピソードを知っていたら、もっと感慨深く
見ることができたのに...と惜しいです。
カフェもすてきでしたよー
万事におおざっぱなアメリカと違って
ここだけヨーロッパの空気が流れていました。
投稿: ☆ zooeyさま ☆ | 2015年12月15日 (火) 08時38分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
おはようございます。
私も、ここでクリムトの絵画を見たことは覚えていたのですが
それが黄金のアデーレだったなんて...
恥ずかしながら映画を見て思い出しました。^^;
あの空間を思い出し、ここならアデーレも
きっとマリアの気持ちを汲み、喜んでくれるのでは...と納得しました。
カフェもすてきでしたよー
今思えば、ドイツやオーストリアからの移民の方たちの
サロン的な場所だったのかもしれません。
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2015年12月15日 (火) 08時51分
☆ margot2005さま ☆
おはようございます。
マリアはオーストリア人である前にユダヤ人であり
彼女たちを受け入れてくれたアメリカに感謝しているのでしょうね。
映画の中で、どうしてもウィーンの地を踏みたくない
ドイツ語も話したくない、と表現されていましたが
それだけ彼女の心は深く傷ついたということなのでしょう。
クリムトのアデーレ、すばらしかったですが
映画で描かれていたエピソードを知っていたら
もっと感慨深く見ることができたのに...と惜しいです。
投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2015年12月15日 (火) 09時04分