読書記録 2016 冬
最近読んだ本の中から、まとめて感想を書き留めておきます。
リース・ウィザースプーン主演の同名映画の原作。映画もよかったですが、原作も引き込まれる作品でした。映画はトレイルの過酷さや風景が視覚的に伝わってきましたが、映像だけでは描写しきれない主人公の細やかな心の動きが、本を読むことでより深く理解できてよかったです。
特に母親や家族、夫に対しての愛情だけでは語れない確執など、本を読むことによって、映画のシーンの意味するところがようやく納得できたような気がします。シェリルにとって2作目となるこの作品がベストセラーとなり、作家になるという夢が実現できてほんとうによかったと思いました。
昨年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智さんの伝記。元読売新聞記者の方が取材を続け、2012年に出版された本です。大村さんの研究者としての偉業は計り知れないものがありますが、経営者、教育者としてもすばらしい功績を挙げられていることを、この本を読んで初めて知りました。
アメリカでの2年の研究生活の間に、アメリカの大学や研究者、製薬会社と信頼関係を築き、特許契約を結び、早くから産学共同研究を推し進めたこと、存続の危機にあった北里研究所を再建したこと等々、視界の広さと先見性、実行力に感動しました。
昨年の芥川賞受賞作。孫が祖父の死にたい願望をかなえようとするサスペンスタッチの作品だと思ったら、全然違いました。^^; 軽度の認知症の祖父と求職中の孫、現代の日本のどこにでもいそうな家族の姿が、深刻すぎず、飄々とした筆致で描かれています。孫と祖父のやりとりが、なかなかいい味出ていました。
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 「戦争は女の顔をしていない」
昨年ノーベル文学賞を受賞したアレクシエーヴィチのデビュー作。「チェルノブイリの祈り」同様、こちらは第二次世界大戦に従軍した女性たちへのインタビュー集です。以前、日本のひめゆりたちの話にも衝撃を受けましたが、ソ連では看護婦のみならず武器をもって戦った女性の兵士たちがいたことに驚きました。
戦争で活躍すると勲章をもらい、男性は英雄になりますが、女性は「人を殺した女」という目で見られるため復員後もひた隠しにしたこと、ましてや負傷すれば結婚は望むべくもなかったこと。戦場における女性ならではの苦悩や悲しみなど、ふつうの言葉で語られるひとことひとことが心にしみました。
昨年頃から日本でもよく聞かれるようになった反知性主義ですが、誤用されていることが多いそうです。アメリカでは1952年のスティーヴンソンvsアイゼンハワーの大統領選挙で登場したことばですが、最近のトランプ氏の台頭に通じるものを感じて、興味を持ちました。
反知性主義はアメリカのプロテスタントにおけるリバイバルの中で生まれたものだといいます。私自身、日本とアメリカの信仰生活を比べてみて、アメリカではキリスト教が空気のような存在で、むしろ日本のクリスチャンの方がストイックだと感じていたので、本書を読んですとんと腑に落ちるものを感じました。
近年いくつかの雑誌に掲載された紀行文を集めた短編集。リラックスしたカジュアルな文章で書かれていて、ファンには魅力的と思いますが、あまり目新しい視点はなく、私にはやや物足りなかったです。一番印象に残ったのはタイトルにもあるラオスの章。特に現地の民族音楽の描写が生き生きとして心に残りました。
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コメント
セレンさん☆
バラエティーに富んだ多くの本を読まれましたね~
「わたしに会うまでの~」は確かに彼女の心の機微を、文字でたどった方がより共感できそうですよね。
映画ではなぜそこまで破天荒になるのか、今一つ判らなかったところですし。
「スクラップ~」は軽く読めて楽しめました。芥川賞?という気もしないでもないですが。
「戦争は~」はかなり重たそうです。今度読んでみたいです。
投稿: ノルウェーまだ~む | 2016年4月16日 (土) 23時55分
こんばんは!
色々なジャンルの本を読まれてますね!
私はどれも未読ですが、この中だと「戦争は女の顔をしていない」は読んでみたいな~。
大村智先生は、女子美術大学の理事長もやってらして美術に造詣が深いんですよね。
ノーベル賞を受賞された時、入手可能な著作が美術の本しかなくて、それをお店でお祝い展示しましたよ。
私も引越してから通勤時間がもとの3倍くらいになってきついのですが(^_^;)、読書時間が増えました。今年は書籍もきちんと記事にしていきたいな~って思ってます。
読書感想記事ってけっこう大変(難しい)ですよね。
投稿: ごみつ | 2016年4月17日 (日) 01時16分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんにちは。
話題になった本はとりあえずチェックしますが
どちらかというと小説よりノンフィクションが多いでしょうか。
「わたしに会うまでの~」は誠実に自分の心を見つめて書かれていて
共感できる部分もたくさんありました。
心の苦しみとの向き合い方は人それぞれでしょうが
彼女の場合はああするしかなかったのでしょうね...
「スクラップ~」は意外と軽かったですね。
たしかにこれが芥川賞?って気もしましたが。^^
「戦争は~」は同性として共感できる部分もあり
ずっしりと心に響く作品でした。
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2016年4月17日 (日) 09時50分
☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
「戦争は~」は絶版でしたが、ノーベル文学賞受賞を受けて
今は他の出版社から再版されているようです。
従軍した女性たちの生の声を集めていて
心にずっしりと響く作品でした。
大村先生がお好きだという鈴木信太郎画伯
なじみのお菓子屋さんの包装紙のイラストを描かれていて
親しみを感じていたので思わぬつながりにびっくりしました。
大村先生が埼玉に建てられた北里の病院は
美術館のように絵がたくさん飾られているそうです。
本まではなかなか記事に手が回らないですが
ひとことでも感想を残せていけたらと思います。
おもしろい本があったら是非ご紹介くださいね!
投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2016年4月17日 (日) 10時20分