オマールの壁
パレスチナで苦悩する若者たちの姿を描いたドラマ、「オマールの壁」(Omar)を見に行きました。 オマールの壁 公式サイト
イスラエルが築いた高い壁が街を分断するパレスチナ自治区。パン職人のオマールは、今日もイスラエル軍の目を盗んで壁を乗り越え、壁の向こう側に住む幼なじみのタレクとアムジャドに会いに行きます。タレクの妹ナディアとは互いに恋心を寄せ合う間柄でした。
しかしある夜、イスラエル軍への反逆を試み、兵士を射殺したオマールたちは秘密警察に追われる身となります。やがて捕えられたオマールは、90年以上の懲役刑とナディアへの脅迫をほのめかされ、捜査官ラミからある取引きを持ちかけられます...。
スタッフ全員がパレスチナ人、撮影はすべてパレスチナで行われ、100%パレスチナの資本で作られたという本作。それゆえ監督、スタッフ、役者たちのメッセージがストレートに伝わってきて、見た後もしばらく打ちのめされ、考えさせられる作品でした。
オマールがよじ登る高さ8mもの壁は、イスラエルとパレスチナの国境にそびえているのではありません。それはイスラエルが、パレスチナ自治区を分断するするように建設したもので、長さは450kmにもおよぶそうです。
表向きの理由は、パレスチナのテロリストを阻止するため。しかしほんとうの理由は、壁によってパレスチナ社会を分断し、彼らを弱体化して、国として成立するのを防ぐのが目的だそうです。
パレスチナ人は行動を制限され、仕事や学校に行くため、あるいは友人や恋人に会うため、壁の向こう側に行くのに、命の危険を冒して8mの高さの壁をよじ登るか、あるいは遠回りしてイスラエルの検問を通らなければなりません。
しかし映画を見て、私がその壁以上に衝撃を受けたのは、パレスチナ人同士の心の絆を分断しようとする、目には見えない壁の存在です。
殺人の容疑をかけられ、どんなに過酷な拷問を受けても決して屈することのなかったオマールですが、愛するナディアに罪を問うことをほのめかされ、彼は表向き、卑劣な協力者となる取引きを受け入れます。
そして手ひどいけがを負ったものの、無事にもどってきたオマールを見て、仲間たちは彼がイスラエルからの取引きに応じ、スパイになったのではないかという、疑いの目を向けるようになるのです。
同胞でありながら、誰が裏切り者かと互いに探り合い、誰ひとりとして信用できなくなる社会。そうした中で、人は疑心暗鬼に陥り、問題の本質を見誤ってしまうではないかと思います。最後のオマールの行動は、愛する仲間たちの意志を継ぐための、心の叫びのように感じられました。
...と映画の背景にあるテーマは重く、シリアスですが、物語はサスペンスあり、ロマンスあり、構成と脚本がすばらしくて、エンターテイメントとしても引き込まれる作品でした。彼らの日常を垣間見て、これまで遠い国のできごとだったイスラエル・パレスチナ問題が、身近な問題として胸に迫りました。
映画を見た渋谷UPLINK 1階のカフェ Tabela(タベラ)で、タイアップメニューをいただきました。左は「ハリーサ」というセモリナ粉を使ったアラブの伝統菓子、右は”聖母の草”を意味する「マラミーナ」というセージのお茶です。すてきなティーセットとともに、映画の余韻を楽しみました。
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コメント
こんにちは。
本当に、観た後に打ちのめされる作品でした。
でも、恐らくかの地では、今でもどこかで同じようなことが起こっているのでしょうね。
今まで知らなかったことを知る機会になった作品でした。
しかし、おっしゃるように映画的なエンターテイメントにも満ちていましたね。
素晴らしい作品だったと思います。
投稿: ここなつ | 2016年6月10日 (金) 19時45分
こんばんは。
とても衝撃的なドラマでしたが、パレスチナ問題にラヴ・ストーリーを絡めて描いているところが素晴らしかったと思います。
ラストに唖然!!でも正にオマールの心の叫びでした。
イスラエルとパレスチナは、いつまでたっても解決されなそうな気配ですが、こういった映画が世に出て上映される機会が増えれば良いなと思います。
投稿: margot2005 | 2016年6月10日 (金) 22時42分
最後のオマールの行動には、打ちのめされましたね。
下っ端のイスラエル兵を殺しただけでもあんなに拷問されたのに
あんな人にあんなことしちゃってオマールは一体どうなるの?
さっさと殺してくれればいいけれどと
私は夜も眠れなくなってしまいました。
投稿: zooey | 2016年6月10日 (金) 22時42分
こんばんは!
この作品、あちらこちらで高評価のレビューをみかけます。
社会問題の提起も含めて、とても上質な作品の様ですね。
イスラエルの映画は時々みかけるけど、パレスチナの映画って本当に珍しいですよね!
今まで、他に作品が公開された事はあるのかしら?
劇場は無理そうなのですが、いつかDVDでも見てみたいです。
タイアップメニューのアラブのお菓子も美味しそうです~。( ´艸`)
投稿: ごみつ | 2016年6月10日 (金) 23時09分
評判は私も耳にしています。ただ・・・日本でも大々的に取り上げられることは少ないかもしれません。メディアにおけるユダヤ資本の存在感は絶大ですから。
それでも、日本は先進国のなかでは比較的パレスチナに対して好意的な存在ですから、地道に長く公開しておいてほしいですね。
人は、やられたことは、やり返すものです。かつてユダヤ人はヨーロッパの地に於いて、阻害されゲットーに封じ込められた記憶が、パレスチナに対する逆切れとなっているのかもしれません。
投稿: ヌマンタ | 2016年6月11日 (土) 15時01分
☆ ここなつさま ☆
こんにちは。
ちょうど2日前にも、テルアビブでパレスチナ人がイスラエル人を銃撃し
その後、イスラエルは検問所を封鎖したというニュースが入ってきました。
映画を見ると、その状況がありありと目に浮かびますね...
そこに、第2、第3のオマールがいると思うと
心穏やかではいられません。
友情や恋を絡めて描かれたことで、血の通ったふつうの若者たちとして
共感することができました。
すばらしい作品でしたね。
投稿: ☆ ここなつさま ☆ | 2016年6月11日 (土) 16時33分
☆ margot2005さま ☆
こんにちは。
パレスチナ問題をテーマにした作品でしたが
友情と恋と裏切りが交錯するラブストーリーとしても
見応えのありました。
ラストには衝撃を受けましたが、ナディアの幸せを見届けた彼には
もう失うものは何もなかったのかもしれませんね。
近いうちに同じ監督さんの「パラダイス・ナウ」を
見てみようと思います♪
投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2016年6月11日 (土) 16時41分
☆ zooeyさま ☆
こんにちは。
ラストは衝撃でしたね。
ナディアの幸せを見届けたオマールには
もう失って怖いものは何もなかったのかもしれません。
猿と角砂糖の話は何を意味していたのか...
映画が終わってからも、深く考えさせられる作品でした。
投稿: ☆ zooeyさま ☆ | 2016年6月11日 (土) 16時46分
☆ ごみつさま ☆
こんにちは。
気になっていた作品、ようやく見ることができましたが
見た後もいろいろと考えさせられる作品でした。
イスラエル・パレスチナ問題を、パレスチナの側から描いた作品は
めずらしいですよね。
同じ監督さんによる、パレスチナ人の自爆テロを題材にした
「パラダイス・ナウ」という作品があるので
近いうちに見てみようと思っています。
アラブのお菓子、おいしかったです~☆
レシピを見つけたので、今度作ってみようかな??
投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2016年6月11日 (土) 16時55分
☆ ヌマンタさま ☆
こんにちは。
この作品、4月に公開されてから、細々とながら
次から次とシアターをかえてロングラン上映されています。
見た人の支持が高く、クチコミで評価が伝わっているのでしょうね。
>やられたことは、やり返す
学術分野や経済界で成功を収めているので
それで十分ではないかと思ってしまいますが
やはりパレスチナは聖地がからんでいるからでしょうか。
解決の糸口は当分見えそうにありませんね...
投稿: ☆ ヌマンタさま ☆ | 2016年6月11日 (土) 17時09分
セレンさん☆
気になっていてもまだ観れてない映画です。
早く観なくちゃ~~
セレンさんの説明がとてもストレートに判りやすく、なお興味をそそられました。
投稿: ノルウェーまだ~む | 2016年6月12日 (日) 23時04分
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
おはようございます。
気になっていた作品、ようやく見てきました。
テーマは重いですが、サスペンスやロマンスをからめて
エンターテイメントとしても引き込まれました。
お時間がありましたら☆
投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2016年6月13日 (月) 08時03分