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2016年8月

金沢能登(4) 輪島の朝市 ~ ヤセの断崖 ~ 8番らーめん

輪島に泊まった翌日、ホテルをチェックアウトしてから名物の朝市を訪れました。

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日本三大朝市のひとつに数えられ、一千年以上の歴史があるそうです。会場となる商店街には露店がずらりと並び、大にぎわい。あちらこちらで売り子さんたちの元気のいい声が飛び交っています。

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やはり海産物のお店が多く、宅配便で送ることもできますが、私は輪島塗のお箸と、布を編んで作ったかわいい草履を室内履き用に買いました。

朝市をひと通り見てまわったら、車に乗って能登半島を西に向かいました。能登の北西部の海岸は能登金剛とよばれ、複雑に入り組んだ海岸線と断崖絶壁、奇岩の風景で知られています。まずは松本清張さんの「ゼロの焦点」の舞台となった”ヤセの断崖”を訪れました。

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駐車場から気持ちのよい遊歩道を歩き進むとと、目の前に広大な青い海とゴツゴツとした岸壁の絶景が現れます。「ゼロの焦点」といえば荒々しい波がざっぱ~んと断崖絶壁に打ちつける風景が脳裏に刷り込まれていたので、穏やかな海の風景に拍子抜けしながらも、その美しさに息をのみました。

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とはいえ、切り立った岸壁はやはりスリル満点。だいぶ手前に柵がついているので落ちる危険はありませんが、中には柵を乗り越えて先の方まで歩く人もいて、見ててひやひやしました。冬の寒風吹きすさぶ頃は、また違った風景が広がっているのでしょうね。

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ヤセの断崖からさらに遊歩道を歩き進むと、”義経の舟隠し”という場所があります。源頼朝の追手から逃れて奥州へと向かう義経と弁慶が、ここに48隻の舟を隠したといわれています。間口5m、奥行き100mの細長い断崖絶壁は迫力満点。足がすくみました。

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手前に細長い入り江があるのがわずかにわかるでしょうか...たしかにここでしたら舟を隠しても、誰も気がつきませんね。ここはあまり観光地化されていなくて、売店ひとつないのも私好み。心に残る風景となりました。

このあとは、車に乗って海岸沿いをさらに南に進みます。途中、波が浸食してできたという巌門(がんもん)という洞穴を見たあとで、どこかでお昼を食べようということになりました。

しばらく和食が続いたので、家族の希望でご当地ラーメンの「8番らーめん」に行ってみることに。創業50年、北陸地方で絶大な人気を誇るラーメンチェーンだそうです。ちなみに石川県加賀市の国道8号沿いに第1号店を出したのが名まえの由来だとか。iPhoneでそんな情報を仕入れつつ、一番近い高浜店を目指します。

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お昼時とあって、店内は大にぎわい。カウンターのほかテーブル席が多く、ファミリーに人気なのもうなづけました。左はお店の看板メニューの野菜ラーメンバター風味、右は野菜担々麺です。お店のトレードマークの8番かまぼこが光ってますね。^^

さておなかがいっぱいになったら、いよいよ金沢に向かいます。

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金沢能登(3) 見附島 ~ 禄剛埼 ~ 白米千枚田 ~ 輪島

和倉温泉から橋を渡り、能登島を経由して、能登半島の先へと進みました。海岸沿いの道路を走っていると、入り江の美しい集落に心を奪われました。

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能登に点在する集落は、どの家も黒い屋根瓦と木の板壁に統一されていて、とても美しいのです。観光地でもなんでもない風景に感動して、外人さんみたいにあちこちで写真を撮ってしまいました。^^ あとから能登瓦、アテ(能登ひば)を使った、この地方の伝統的な家の造りだということを知りました。

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(画像はネットより拝借) ふと思い出したのが、アメリカのボストンに近い避暑地で知られるケープコッド。和と洋という違いはありますが、薄墨色の板壁で統一された家並みがどことなく似ています。北国独特の海と空の色、鉤形の半島...と共通点も多く、一大発見した気分になりました。

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能登半島を東へ東へ...1時間ほど走って、珠洲(すず)市にある見附島(みつけじま)を訪れました。空海(弘法大師)が布教のために佐渡から能登に渡ってきた時に、最初に”目に附いた”のが名まえの由来だそうで、その形から”軍艦島”ともよばれています。

写真ではうまく伝えられませんが、駐車場から木立の中を歩いて突然視界が開け、この島が目の前に現れた時のインパクトは強烈でした。白い岩肌の美しさが印象的ですが、ここ珠洲の特産品、七輪の材料である珪藻土(けいそうど)でできているそうです。

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さらに走って...ようやく能登半島の最先端、禄剛埼(ろっこうさき)にたどり着きました。ふもとの道の駅に車を停めて、灯台のある高台へと上ります。この日はお祭りがあるようで、会場の準備をしているおじさんたちが、早くも打ち上げの相談をしているのが微笑ましかったです。^^

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周りを海で囲まれた高台は公園になっていて、その先端に白亜の灯台がありました。意外と小さな灯台ですが、この向うは海抜50mの断崖絶壁です。明治16(1883)年、イギリス人技師が設計したこの灯台は、歴史的・文化的価値が高く、「日本の灯台50選」に選ばれています。

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目の前に広がる青い海。禄剛埼はちょうど内浦と外浦の接点にあたり、海からのぼる朝日と、海に沈む夕日をどちらも見ることができるそうです。

そろそろ日が陰ってきたので、先を急ぎます。禄剛埼から輪島に向かう途中で、車の中から塩田をいくつも見かけました。珠洲市は塩の産地で、江戸時代から続く”揚げ浜式製塩”という方法で塩を作り続けています。塩づくり体験のプログラムもあるそうなので、時間があれば参加してみたかったな...。

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輪島市に入って...最後に白米千枚田(しらよねせんまいだ)に寄りました。2011年に世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」の象徴的スポットです。田んぼの間を歩いてまわることもできますが、私たちは時間の都合で道路から見下ろすだけにしました。

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(画像はネットから拝借) 実はこういう風景を想像していたので、一瞬あれ?と思いましたが、よく考えるとこの風景が見れるのは稲刈りしてから田植えの前までですね。今は稲がぐんぐん育つ時期で、上から見ると緑のモコモコがどことなくユーモラスでした。

この日は輪島に泊まって、温泉に入り、能登の海の幸やあわびなどを堪能しました。夕食の後は輪島市名舟村の伝統芸能、御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)のパフォーマンスを鑑賞。

戦国時代、上杉謙信の軍勢を、武器をもたない村人たちが木の皮で作ったお面と髪に見立てた海藻を身にまとい、太鼓を激しく打ち鳴らして撃退したという由来があります。プリミティブで勇壮なパフォーマンスは大迫力。襲われた上杉軍はどれほど恐ろしかっただろう...当時の夜に思いを馳せました。

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金沢能登(2) 千里浜なぎさドライブウェイ ~ 和倉温泉

旅の前半は、能登半島をぐるりと一周してきました。金沢駅でレンタカーをピックアップして、のと里山海道を北上します。のと里山海道は、金沢から能登空港近くまで延びる自動車専用道路ですが、なんと全線無料なのです。これも北陸新幹線の開通にあわせての対応だそうですが、旅行者にはうれしいですね。

今浜ICでおりて、千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイを走ります。

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千里浜なぎさドライブウェイは、日本で唯一、車で走ることのできる砂浜です。千里浜の砂は特別粒子が細かく、適度な水分を含んで固くなっているので、舗装した道路と同じように走ることができるのです。以前訪れた時は、大型バスでここを通りました。

砂浜なので車線はなく、轍(わだち)を目安に走るのですが、幅が広いので対向車とすれ違うのも楽々。砂浜なのでもちろん海水浴場もあって、そのまま駐車できてしまうのがおもしろい。車の前にテントやビーチパラソルを立てて、夏のビーチを楽しんでいるご家族をたくさん見かけました。

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アンドレアス・グルスキーの「ライン川 Ⅱ」の構図でパチリ。

千里浜ICからふたたび里山海道を走って、和倉温泉へと向かいました。港の近くに飲食店が並んだ通りがあり、そのうちのひとつ「能登海鮮丼 みとね」さんでお昼をいただくことにしました。

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(左)はお店のおすすめの能登海鮮丼。私は(右)の地物すし丼をいただきました。海鮮丼と比べるとサーモンやいくらが入っていないので一見地味ですが、地元ならではのおいしい海の幸が堪能できて大満足でした。

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港の近くを少し歩いてみました。海岸沿いに旅館やホテルが並んでいます。

和倉温泉といえば金沢からも近い、能登を代表する観光地。町は整然としてきれいでしたが、人がほとんど歩いていなくて驚きました。先を急いでパスしてしまいましたが、立ち寄りで楽しめる総湯があったので、入っていけばよかったな~と後から思いました。

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世界的パティシエ 辻口博啓(つじぐち ひろのぶ)さんのミュージアムがあったので、ちょっとのぞいてみました。自由が丘のモンサンクレールほか、都内にいくつもの違うタイプのスイーツのお店を展開している辻口さんは、和倉温泉のある七尾市のご出身です。

ミュージアムはパティスリーに併設された小さなスペースですが、精巧でアーティスティックな飴細工の作品の数々や、大掛かりな作品を作るパフォーマンスの映像を見ることができました。

【 参考サイト 】
 のと里山海道 マップ
 渚をドライブ (千里浜なぎさドライブウェイ)
 わくらづくし (和倉温泉 公式サイト)
 辻口博啓 official web

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金沢能登(1) 北陸新幹線で金沢へ

3週間前になりますが...都知事選の期日前投票を済ませて、7月末に金沢と能登を旅してきました。

私にとって金沢は今回が3度目、能登は2度目の旅行になります。金沢を初めて訪れた時は学生だったこともあって夜行列車で、2度目は小松空港まで飛行機で、そして3度目の今回は、昨年開通した北陸新幹線に乗って行きました。

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東京駅で、7時20分発の「かがやき」がホームに入ってきたところをパチリ。奥に見えるのは、東北新幹線に連結された山形新幹線です。「かがやき」は上野、大宮、長野、富山に途中停車し、終点の金沢まで2時間40分。その気になればさくっと日帰りで金沢観光が楽しめますね。学生の頃とは隔世の感があります。

沿線はしばらく市街地を通るので、防音壁が視界をさえぎって、あまり眺望は楽しめませんが、最新の車両はほとんど振動がなく、足元が広々として快適でした。長野の山岳地帯を抜けて富山が近づくと、日本海が見えてきて一気に旅の気分が高まりました。

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できたばかりの金沢駅は、広々としてとてもきれい。米TRAVEL+LEISURE誌の世界で最も美しい駅のひとつにも選ばれています。構内の観光案内所でクーポンなどを入手して、東口の近代的なもてなしドームを抜けると、金沢駅のランドマーク、堂々と風格のある鼓門(つづみもん)が現れます。

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金沢の伝統芸能、能楽の加賀宝生の鼓をイメージしたという鼓門。TVで見ると真っ赤というイメージがありましたが、木の風合いを生かしたシックで落ち着いた色でした。繊細な曲線、精巧な木組みがすばらしく、しばしうっとりと見惚れました。

                              

旅行の前に、金沢を舞台にした映画をいくつか見ました。

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ゼロの焦点 (2009)

松本清張さんの原作はその昔読んだことがあります。何度も映像化されている名作ですが、現代と比較しながら興味深く見ました。

まず、金沢というと私には華やかな城下町というイメージがありましたが、その昔は雪深い最果ての地だったのだな...ということ。犯人は、まさかこの地で遠く離れた東京での過去の自分を知る人と再会するとは思わず、それが悲劇の引き金となってしまったのでした。

それとこの小説(+映像)のイメージがあまりに強烈で、これまで北陸の日本海といえば断崖絶壁に波が打ちつける荒々しい海を思い浮かべていましたが、今回の旅では、藍々として美しく、穏やかで包容力がある海を知りました。

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武士の家計簿 (2010)

御算用者(会計処理の役人)として代々加賀藩の財政に携わってきた下級武士、猪山直之(堺雅人)とその家族を描いた、実在する資料に基づく物語。当時の武家の日常とともに、そろばんオタク?会計オタク?ともいうべき、直之のエキセントリックなキャラクターが楽しめました。

借金を整理するため家財道具を次々と処分。父親の葬儀の日にも悲しみに暮れる暇なくその日の収支をつけ、幼い息子が4文銭をなくしても決して容赦しない厳しい直之ですが、それでも家庭がぎすぎすせず、明るさを失わなかったのは、妻(仲間由紀恵)の才量が大きかったのでしょうね。古き良き家族の姿を見ました。

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ニュースの真相

ケイト・ブランシェット&ロバート・レッドフォード共演、2004年のブッシュ大統領 軍歴詐称疑惑報道の裏側を描いた実話に基づくドラマ、「ニュースの真相」(Truth)を見ました。
 ニュースの真相 公式サイト

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2004年、ジョージ・W・ブッシュ大統領が再選をめざす大統領戦のさ中、CBSの敏腕プロデューサー メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が司会を務める報道番組で、ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑というスクープを報じます。

しかし間もなく、保守系のブロガーから、証拠となる書類は偽造されたものだと指摘されたことで事態は一転、メアリーたちは窮地に立たされます...。

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ダンが報道番組 60 minutes II で報じた”ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑”とは、徴兵制のあったベトナム戦争当時、ブッシュが兵役を逃れるために、父親の政治力を使って(前線に出なくてよい)テキサス空軍に入隊し、ほとんど活動しないままに兵役義務を終了した、というもの。

メアリーは当時をよく知る退役軍人から証拠となる書類のコピーを入手し、その時は絶対の自信をもって報道に踏み切るのですが、間もなく保守系のブロガーから、この書類は(70年代にはなかった)Wordで作成されたもので、コピーを繰り返すことで古い書類に見せかけた偽物だ、と糾弾されてしまいます。

その後も証拠の不備が次々と指摘され、他局からも非難されたCBSは内部調査委員会を設置。メアリーは不屈の精神で証拠固めに奔走しますが、最終的には証明するに至らず、ダンとともに報道の第一線を退くことになってしまいます。

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ブッシュの軍歴詐称はほぼ真実ですから、これがネットでの告発でしたらひょっとしたら大きなムーブメントを起こすことができたかもしれませんが、大手メディアの報道としては証拠不十分で公正さに欠けると判断され、メアリーたちは厳しく糾弾されることとなってしまいます。

ネットの一個人の意見が世論を動かすこともめずらしくない昨今では、テレビや新聞といった既存のメディアの権力に対する追求が及び腰に見えて、歯がゆく感じてしまうこともしばしばしばですが、本作を見るとスクープには大きなリスクがつきまとい、慎重になるのも無理はないと思えてきました。

メアリーとしてはブッシュの選挙戦を妨害するつもりはなく、ただ真実を告発したいというジャーナリストとしての使命感からの行動でしたが、わずかな綻びから徹底的に攻撃され、引きずり降ろされてしまうとは、なんという厳しい世界だろうと思いました。

本作を見ると、カトリック教会のスキャンダル報道を描いた「スポットライト 世紀のスクープ」とつい比べてしまいますが、両者の明暗を分けたのは、証拠の確かさと、報道のタイミングでしょうか...。ターゲットとなる相手が大きければ大きいほど細心の注意が必要、という報道の難しさを改めて実感しました。

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メアリーを演じるケイト・ブランシェットは、いつもながらかっこいい。久しぶりに見るロバート・レッドフォードは、「大統領の陰謀」(1976)で演じたウォーターゲート事件をスクープする正義感あふれる記者の姿が重なって見えました。

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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

1950年代の赤狩りの時代に「ローマの休日」などの名作を送り出した脚本家、ダルトン・トランボの波乱の人生を描いた伝記ドラマ、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(Trumbo)を見ました。
 トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 公式サイト

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ハリウッドの脚本家として成功を収めていたダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)は、冷戦時代に赤狩りの対象となって投獄され、ハリウッドを追放されてしまいます。しかし理不尽な妨害にめげずにいくつもの偽名を使い分け、B級作品から大作まで、次々と脚本を手掛けていきます...。

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映画を見るまでトランボって知らないな...と思っていたのですが、ハリウッドの黄金時代、またトランボ自身にとっても脂ののっていた時代に、赤狩りの標的となってハリウッドを追放され、名誉を回復するまでいくつもの偽名を使い分けて、多くの名作を生み出した脚本家だということを知りました。

あの「ローマの休日」も、トランボが友人の名まえを借りて書いたもので、映画は大ヒットし、その年のアカデミー原案賞を受賞しました。それが明らかになったのはトランボが亡くなった後で、1993年、改めて彼の名まえでオスカーが贈られたそうです。

フィルモグラフィを見ると、私が大好きな「いそしぎ」も彼の作品だったと知り、うれしくなりましたが、このほかにも「スパルタカス」「栄光への脱出」「ジョニーは戦場に行った」「パピヨン」(いずれも未見)など、数々の重厚な人間ドラマを生み出しました。

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トランボが撮影現場の裏方さんたちのために労働運動に参加するというセリフがあったものの、映画を見るかぎり、共産主義者というほどではないように思ったので少々腑に落ちなかったのですが、冷戦が幕開けしたばかりのこの頃は、恐怖からくる猜疑心が支配する時代だったのでしょうね。

トランボは国家の敵というレッテルを貼られ、弾圧されますが、権力に屈することなく、仲間を売らず、かといって他者を非難せず、自らの信念を曲げなかった。その気になれば、うまく立ち回ることもできたでしょうが、トランボは家族、特に子どもたちのために、自分に恥ずかしいことはできなかったのだろうと想像しました。

そして家族を養うために別の仕事に就くこともできたはずですが、偽名を使っても脚本書き続けたのは、映画を愛し、書くことを愛し、映画の世界にいることで何より自分が生きていることを実感できたからだと思います。

だから彼はB級映画を作る小さな映画会社と契約して、破格のギャラで、文字通り寝食も忘れ、脚本を書いて、書いて、書き続けた。そうした中で「黒い牡牛」という名作が生まれ、アカデミー賞まで受賞してしまうのですから、こんなに痛快なことはありません。

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偽名で書いたので誰も彼が受賞したことを知らなくとも、その喜びを共有できる家族がいたことは、何より彼には幸せだったに違いありません。困難な中にいても自分を見失わず、ユーモアを忘れず、家族と映画を愛し続けたトランボに大きな勇気を与えられました。

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フラワーショウ!

イギリスの権威あるガーデニング大会、「チェルシーフラワーショウ」に挑戦したアイルランドのランドスケープデザイナー、メアリー・レイノルズの奮闘を描いた実話に基づくドラマ、「フラワーショウ!」(Dare to Be Wild)を見ました。
 フラワーショウ! 公式サイト

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アイルランドの豊かな自然の中で育ったメアリーは、ガーデンデザイナーになることを夢見て、有名デザイナー シャーロットのアシスタントになりますが、高慢な彼女に利用するだけ利用され、デザインを描きためた大切なスケッチブックを奪われた挙句、クビをになってしまいます。

傷心したメアリーでしたが、夢を実現するために無謀にも世界中の注目が集まる「チェルシーフラワーショウ」に応募し、金賞を取ることを決意します...。

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かつてコッツウォルズで見たイングリッシュガーデンに憧れて、アメリカで住んだ家ではガーデニングを楽しみにしていました。しかしほどなくして、広い庭を維持することがいかにたいへんかを思い知ることになりました。

特にたいへんなのが雑草抜き。端から抜いても一日ではとても終わらず、翌日には抜いたところから新しいのがまた生えているという有様。結局、ご近所さんに倣ってガーデニングカンパニー(ヒスパニック系の方が多い)にメンテナンスをお願いし、私は裏庭のコンテナガーデンでハーブを育てるのに留めることにしました。

そもそもイングリッシュガーデン自体が、アメリカではあまり人気がないようです。楚々とした可憐なハーブも彼らの目には、ガーデンの主役とはなりえない雑草にしか見えないのかもしれません...。

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そんな経験があったので、メアリーさんが作る”サンザシの木と野草のガーデン”を見るのを楽しみにしていました。彼女の庭造りの哲学や、どのように資金を集め、協力してくれるスタッフたちを見つけたか、舞台裏を興味深く見ることができました。

イギリスはアメリカほどではないと思いますが、それでも2002年当時、彼女の”雑草を生かしたガーデン”が金賞を受賞するというのは、100年の歴史があるチェルシーフラワーショウでは革命的なことだったとか。しかし以降、自然を生かしたガーデンが多く出展されるようになったそうです。

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映画を見て想像と違ったのが、エチオピアの植林活動が大きく取り上げられていたこと。メアリーが植物学者のクリスティに手伝ってもらいたくて、彼のいるエチオピアまで押しかけるのですが、最初はクリスティも言うように、庭造りと植林活動ではまるで方向性が違うように思いました。

でも一見自然のままに見える風景であっても、人が手をかけなくては維持することができない...という意味では、同じといえるのかもしれません。エチオピアの植林活動を新妻香織さんという日本人の方が進めていることも、この映画を見て初めて知りました。

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メアリーさんの作るガーデンは、野草もさることながら、不揃いな石を積み重ねたり、大きな石を遺跡のように配したり、石の使い方が個性的ですてきだなーと思いました。風の通り道のような円い穴があるのは、風水に似ているような...ケルトの信仰は自然崇拝で、東洋の考え方に近いのかもしれませんね。

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「ブルックリン」「シングストリート」と今年はアイルランド映画の当たり年?ですが、本作でもアイルランドの美しい緑の風景が心に残りました。

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ブルーベリー狩り 2016

2週間前の週末、練馬区の観光農園にブルーベリー狩りに行ってきました。毎年楽しみにしていて、8月に入るとそわそわと開園情報のサイトをチェックするのですが、今年は7月10日頃、昨年行ったファーム大泉学園さんから開園のお知らせが届きました。

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ブルーベリー狩りに行くようになって7年になりますが、こんなことは初めてです。そういえば昨年訪れた際に、住所を聞かれ、いろいろ話をしたことを思い出しました。予約の電話を入れると、覚えてくださってて感激しました。

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開園してまだ間もないこともあって、どの木にも大粒のブルーベリーがたくさん実っていて感動しました。薄黄緑~赤~濃青のグラデーションの美しさにうっとりしながら、なるべく色の濃い大粒の実を摘んでいきました。

過去の記事を見ると、以前は9月に訪れることもあったのですが、8月末、8月半ば...今年はとうとう7月と、年々シーズンが早くなっているように思います。これもまた温暖化の影響でしょうか。

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朝一番に訪れて、最初は私たちだけの貸切り状態でしたが、だんだん家族連れの声でにぎわってきました。近所の方たちは食べる分だけ摘んですぐ帰られるので、私たちが一番長くいたでしょうか。暑い中、摘んでいるうちにいつの間にか寡黙になっていきます...。

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摘む時は夢中でまったく気がつかなかったのですが、あとで見たらだいぶ蚊に刺されていました。

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新芽の柔らかなグリーンが美しい。

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今年は約3.2kg摘みました。持っていったプラスティックコンテナだけでは足りず、残りはビニール袋に入れてもらいました。すぐ食べる分は冷蔵庫、残りは冷凍庫に保存します。

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新鮮なのをそのままつまむのが一番ですが、ヨーグルトに入れたり、スムージーにしたり、しばらく楽しみたいと思います。

 ブルーベリー狩り 2010 (内堀農園)
 ブルーベリー狩り 2012 (高橋ブルーベリーガーデン)
 ブルーベリー狩り 2013 (芹沢農園)
 ブルーベリー狩り 2014 (ベリーズ愛らんど)
 ブルーベリー狩り 2015 (ファーム大泉学園)

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上野桜木 菜の花 &谷根千散策

展覧展を見た後、上野桜木 菜の花さんでお昼をいただきました。東京藝術大学の音・美2つのキャンパスの間を千駄木方面に進む小道の途中にあります。こちらの店主が佐渡出身とのことで、ご実家から取り寄せた食材を使った郷土料理が楽しめました。

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(画像はサイトからお借りしました) 入口の凛とした佇まいにわくわく期待が高まります。店内は奥に細長い作りで、ダークウッドの落ち着いた温かみのあるインテリアがくつろげました。お昼の一番人気という「旬のお魚の茶漬け膳」をいただきました。

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豆皿を組み合わせた色とりどりの前菜がかわいらしい。奥からミニトマトの太白和え、ツルムラサキのおひたし、佐渡小木豆腐、とら豆の塩煮、きゅうり味噌、だし巻き卵、ドローンかぼちゃ煮です。

野菜は、お豆腐の大豆も含め、すべてご実家の自家栽培だそうです。小木豆腐はお塩で。初めて食べましたが、しっかりとした食感でした。どのお料理も素材のお味をそのまま生かしたシンプルな味付けです。ミニトマトの太白(ごま油)和えは、家でも早速まねして作ってみました。

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やがて、ごはんとお造り、お味噌汁が運ばれてきました。ごはんは自家栽培のコシヒカリ。お造りはマグロ、スズキ、ワラサ(ブリ)の3種類で、胡麻だれで和えてあります。ごはんにのせると漬け丼みたいでおいしかったです。お刺身は1切れずつ、お茶漬け用に取っておきました。

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最後にごはんに出汁入りのお番茶をかけて、お茶漬けでいただきました。お刺身をお茶漬けでいただくのはあまり好みではないので、お茶は少なめに注ぎましたが、お味の変化が楽しめておいしかったです。

                              

佐渡料理を堪能した後は、谷根千方面を散策しました。このあたりは、味わいのある古い木造家屋がそこここに残っていて、懐かしいようなほっとした気持ちになります。

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事問通りとの交差点にある旧吉田屋酒店。明治時代の酒屋の建物を移築したもので、樽、秤などの道具類をはじめ、当時の酒屋さんの様子を知ることができました。

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そのすぐ横はカヤバ珈琲。レトロで大人気の喫茶店です。

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明治33年から続く和菓子の谷中岡埜栄泉さんでは豆大福をおみやげに買いました。

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その向かいには愛玉子(オーギョーチィ)さん。古びた看板がいい感じ。

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新名所の上野桜木あたり。古い木造家屋が集まった一角に、ビアホールやベーカリーなどがあります。この日はイベントで能登の野菜マーケットが出ていました。

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三崎坂(さんさきざか)にあるかっこいい自転車屋さん。入口に杉玉があるということは、もとは酒屋さんだったのでしょうか。

この後は岡倉天心記念公園の前を通って谷中ぎんざ(商店街)をぶらぶらし、最後に千駄木のやなか珈琲店でひと休みしました。谷中ぎんざは外国の方はじめ観光客で大賑わいで、すっかり熱気にあてられました。

 谷根千散策 (2010/10)
 上野桜木 パティシエ イナムラショウゾウ (2009/09)

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ポンピドゥー・センター傑作展 @東京都美術館

上野の東京都美術館で開催されている「ポンピドゥー・センター傑作展 ―ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで―」(~9月22日まで)を見に行きました。
 ポンピドゥー・センター傑作展 公式サイト

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ポンピドゥー・センターはパリ中心部にある総合文化施設。特にフランスを代表する近現代美術コレクションで知られています。学生時代に訪れた時は、初めて見る前衛的な建物に興奮しましたが、当時はまだあまり現代アートに興味がなく、作品についてはほとんど覚えていないのです。

私が現代アートが好きになったのは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の影響が大きいです。実際ポンピドゥーが建てられたのも、戦後、ニューヨークに移りつつあったアートの発信地という地位をパリに取り戻したいというねらいがあったとか。それにはこの斬新な建物こそがふさわしい舞台だと考えられたのかもしれません。

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本展はフランス20世紀美術に焦点をあて、フォーヴィズムが台頭する1906年からポンピドゥーが開館する1977年まで、1年ごとに1作家1作品を厳選して紹介するというユニークな企画で、まるでタイムマシンに乗って、アートの変遷を旅するような楽しさがありました。

それぞれの作品に、作者の肖像写真が添えられているのは20世紀ならでは。20世紀に入って写真が登場したことで、アーティストたちはものを写し取ることから解放され、新しい表現ができるようになった、との解説には深く納得しました。

ポスターの作品は、左からマティス、シャガール、ピカソですが、それ以外にも興味深い作品がたくさんありました。

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ラウル・デュフィ 「旗で飾られた通り」 (1906)
本展のスタートを飾るのは、”色彩の魔術師”デュフィ。革命記念日にはためくトリコロールの国旗を描いた、フランス愛あふれる作品です。

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ロベール・ドローネー 「エッフェル塔」 (1926)
エッフェル塔の連作で知られるドローネー。青空を大胆に分断するカラフルなエッフェル塔は、まるでパッチワークみたい。

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二コラ・ド・スタール 「コンポジション」 (1949)
モダンなインテリアにしっくりなじみそうな、色彩をおさえた幾何学的デザインがかっこいい。絵具をたっぷりと盛り上げ、ごつごつした壁画のようなテクスチャーです。

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クリスト 「パッケージ」 (1961)
ポン・ヌフなどの大きな建造物を梱包するアートで知られるクリスト。2005年にニューヨークのセントラルパークで見た、オレンジ色のカーテンが通路を埋め尽くすThe Gatesは、”体験するアート”として心に刻まれています。

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ヴィクトル・ヴァザルリ 「アーニー(影)」 (1967)
錯視を使ったアートで知られるヴァザルリ。この作品は一見なんじゃこりゃ?ですが、表面に60度の凸凹がついていて、見る角度によってアニメーションのように色彩構成が変わります。

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ジャン・デュビュッフェ 「騒がしい風景」 (1973)
アンフォルメル(不定形)のアートで知られるディビュッフェ。かなり大きな作品ですが、厚さ4cmほどの板が描画に合わせて切り取られています。落書きのような自由な表現が楽しい。

ラストの1977年は、レンゾ・ピアノ&リチャード・ロジャースによるポンピドゥーセンターのスタディ模型。第2次世界大戦が終わった1945年は、作品の代わりにエディット・ピアフの「バラ色の人生」が流れていました。絵画のほか、彫刻、家具、写真、映像作品とあり、バラエティ豊かで楽しめました。

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