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奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~

パリ郊外の貧困地区にある高校の問題児クラスを舞台にしたヒューマンドラマ、「奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~」(Les Heritiers / Once in a Lifetime)を見ました。情熱ある歴史教師によって変わっていく生徒たちを描いた、実話に基づく作品です。

 奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~ 公式サイト

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パリ郊外の貧困地区にあるレオン・ブルム高校。さまざまな人種の生徒が在籍する落ちこぼれクラスに、教員歴20年のベテラン歴史教師ゲゲン先生(マリアンヌ・アスカリッド)が赴任してきます。生徒たちは好き勝手にふるまって、なにかといえば衝突し、まともな授業になりません。

そんな彼らにゲゲン先生は、全国歴史コンクールに参加しようと提案します。”アウシュヴィッツ”という難解なテーマに、自分たちにできるはずがないと尻込みする生徒たちでしたが...。

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ホロコーストというテーマを授業に取り入れてクラスの再生をはかっていく実話といえば、ヒラリー・スワンク主演の「フリーダム・ライターズ」(2007)を思い出します。また序盤のクラスの荒れた様子や生徒が参加する成績会議など、フランス映画の「パリ20区、僕たちのクラス」(2008)を思い出す場面もありました。

「フリーダム・ライターズ」は、ヒラリー・スワンク演じる新人教師の葛藤や奮闘ぶりが心に残る作品でしたが、本作ではゲゲン先生の背景や、生徒たちそれぞれが抱えている個人的な事情や問題について、ほとんど触れられていません。

それでも授業を通じて、さまざまな宗教的、人種的バックグラウンドをもつ生徒たちが共生することの難しさは十分に伝わってきましたし、物語はあくまで彼らが取り組むプロジェクトの進行にターゲットがしぼられていて、まるで自分もそこにいるかのように彼らの体験を共有することができました。

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今やたいていのことはインターネットで調べられる時代。ホロコーストの衝撃的な事実を知るまでにそれほど時間はかかりませんが、ゲゲン先生はそれだけでは不十分だといいます。司書の先生にも助けられ、さまざまな資料から証言を集める生徒たち。ホロコーストミュージアムにも訪れます。

そして、強制収容所の生存者であるレオン・ズィゲルさんから壮絶な体験を聞いて、生徒たちはこのような悲惨なできごとを二度と起こさないために、被害者ひとりひとりの人生に寄り添い、語り継いでいくことが、未来を担う自分たちに与えられた使命だと気づくのです。

多くの移民を受け入れ、多民族、多人種の中で日々を送り、時に衝突し、時に理由のない差別や偏見にさらされることのある彼らにとって、ホロコーストは決して過去のできごとではなく、今も起こりうる問題だということを彼らは肌で感じているのだと思います。

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最初はまるで動物園のようだったクラスを、ひとつにまとめあげるゲゲン先生の手腕はすばらしい。見た目は大人なのに、時につかみ合いのけんかをする彼らは、実は子どものような純粋さをもっていて、それゆえにその情熱を力に変えることができたのかな?とも思いました。

むしろ、自分の殻に閉じこもってことばを発しないテオのことをひそかに心配して見ていたので、最後に人一倍はしゃいでいる姿に胸が熱くなりました。人生の中で一番感受性が豊かな時代にすばらしい先生にめぐりあい、貴重な経験をした彼らがちょっぴりうらやましくなりました。

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映画」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。

ヒラリー・スワンク主演の「フリーダム・ライターズ」。そういやその映画見ましたが、全く内容忘れていました。レビューを読み返してかなり似たテーマだと思い出しました。
そうそう「パリ20区、僕たちのクラス」も移民の子供たちが生徒で先生はかなりの熱血漢でした。

しかしながら本作の歴史教師ゲゲン先生の生徒に対する情熱は半端じゃなかったですね。
>最初はまるで動物園のようだったクラスを、ひとつにまとめあげる...
これにはとても感動しました。あのような情熱を持つ教師は数少ないでしょうが、この映画は学校教師に見てもらいたい一作かも知れません。

投稿: margot2005 | 2016年9月24日 (土) 21時07分

こんばんは!

「奇跡の教室」行かれたのですね。まだ上映されてるとは、けっこうロングランですよね~。

公開も小規模で地味な作品ですが、作品の素晴らしさもあってクチコミで人気がひろがってるんでしょうか。

それにしてもこれほど素晴らしい教師に出会える機会っていうのは、そうそうないと思うので、本当に彼らは幸せですよね。
それとともに教育の重要性も痛感させられる作品でした。

あの黒人の彼が、その後この経験をベースに脚本を書いて、主演もつとめる事になるなんて、まさにちょっとした奇跡の様な実話ですね。

投稿: ごみつ | 2016年9月25日 (日) 01時07分

こんにちは。
弊ブログにご訪問いただきありがとうございました。
私も「フリーダム・ライターズ」を想起したクチですので、同じ想いをされたという記事を読んで嬉しかったです。
良き教師との出会いは学生にとってかけがえのないものですね。
少し彼らが羨ましくもありました。

投稿: ここなつ | 2016年9月25日 (日) 10時24分

セレンさん☆
先日のオーケストラにしてもこのところ深いテーマを選ばれていますね。
この映画、私も気になっていた作品です。
移民が多く流入してきて、実際に差別を受ける人、移民を疎ましく思う人と、現実的な現場だからこその真実味がありますね。
このような素晴らしい先生がもっと沢山いて、感受性豊かな年齢の時に良い授業を受けられたら、世の中もっとよくなるのでは?と思っちゃいますね。

投稿: ノルウェーまだ~む | 2016年9月25日 (日) 15時32分

☆ margot2005さま ☆
こんばんは。
「フリーダム・ライターズ」や「パリ20区~」の先生は
まだ若く、奮闘しながらも葛藤が読み取れましたが
本作のゲゲン先生はさすがはベテランといった感じで
信念のままに、しっかりクラスを導いていましたね。

ベテランであっても教師としての情熱を持ち続け
誰もがさじを投げてしまったクラスに命を注ぐ姿に感動しました。

投稿: ☆ margot2005さま ☆ | 2016年9月26日 (月) 00時16分

☆ ごみつさま ☆
こんばんは。

奇跡の教室、3週間くらい前に見に行ったのですが
旅行記やらなにやらで、記事にするのがすっかり遅くなりました。

誰もがさじを投げてしまっている落ちこぼれクラスで
生徒たちもやる気なく、半ばあきらめている中で
先生の粘り強い指導で、なにより生徒たちが自信をとりもどしたことが
すばらしいなーと思いました。

生徒たちにとってはまさに人生が変わってしまったわけで
教育の力はほんとうに偉大ですね。

投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2016年9月26日 (月) 00時39分

☆ ここなつさま ☆
こんばんは。
「フリーダム~」も本作もどちらも実話に基づいた作品ですが
やはり多民族国家において、ナチス、ホロコーストの問題は
学校教育において、今につながる重要なテーマなのでしょうね。

デリケートな問題だけに、人生の大事な時期に
マダム・ゲゲンのような先生に出会えた彼らは
ほんとうに幸せだなーと思いました。

投稿: ☆ ここなつさま ☆ | 2016年9月26日 (月) 00時53分

☆ ノルウェーまだ~むさま ☆
こんばんは。
「ストリート・オーケストラ」に本作...と
ちょうど似たテーマの作品を続けて見てしまいましたが
どちらも教育、とりわけ指導者の重要性を実感する作品でした。

移民に対して、また民族間のヘイトがある今の時代には
ナチス、ホロコーストは決して過去の問題としてすまされませんね。
日本も知識偏重ではなく、もっと”考える”授業を
取り入れるべきだと思いますが、そのためにはまず指導者を
育てるところからはじめなければ...課題は多いですね。

投稿: ☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ | 2016年9月26日 (月) 01時10分

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