パラダイス・ナウ / 歌声にのった少年
「オマールの壁」のハニ・アブ・アサド監督による、パレスチナの今を描いた2作品です。
パラダイス・ナウ (Paradise Now)(2005)
パレスチナに住むサイードとハーレドは、自爆テロの実行役に選ばれます。取り外しのできない爆弾を体に巻き付け、正装し、メッセージビデオを撮った二人は、仲間に車で送られてテルアビブに向かいますが、途中でイスラエル軍に捕まりそうになり、逃げるうちにサイードは仲間とはぐれてしまいます...。
6月に「オマールの壁」を見て衝撃を受け、すぐにこの作品のDVDを借りました。「オマールの壁」でパレスチナの現状についての予備知識を得ていたので、彼らが抱えている問題や取り巻く状況について、すんなりと理解して見ることができてよかったです。
サイードは、帰郷した独立運動の英雄の娘スーハと会い、親しくなります。ヨーロッパで教育を受けたスーハは、暴力以外にパレスチナが訴える道があるはずだと力説しますが、長年、先の見えない貧困と不自由の中にいるサイードには、空虚な理想論としか思えません。
また、父がかつて密告者として罰せられたことは、サイードにとって消えることのない大きな罪となっていました。彼が自爆テロに向かう途中で仲間とはぐれたのは偶然ですが、そのことで自分も裏切り者とみなされることを恐れ、ただひとり、テルアビブへと向かうのです。
サイードたちが住む瓦礫の貧しいパレスチナの町並みと、最後に登場する豊かで近代的なイスラエルの大都市テルアビブ。そのあまりの落差に愕然としました。メッセージビデオを撮るシーンには、シリアスな中にも滑稽さがあり、アサド監督らしさを感じました。
歌声にのった少年 (Ya Tayr El Tayer / The Idol)(2015)
パレスチナ・ガザ地区に住むムハンマド少年と、活発な姉ヌールは音楽が大好き。仲間とバンドを組み、おんぼろ楽器で演奏活動をしていますが、ヌールは、ムハンマドがいつか立派な歌手になると信じていました。しかしヌールは腎臓病に侵され、手術を受けられずに亡くなってしまいます。
青年になったムハンマドは、”スターになって世界を変える”という姉の夢をかなえるために、オーディション番組「アラブ・アイドル」に出ることを決意。パスポートやビザをやりくりしたムハンマドは、なんとかエジプトに入国し、カイロの会場にたどり着きますが...。
アサド監督の最新作が公開されていると知って、遅ればせながら見に行ってきました。パレスチナ・ガザ地区出身の歌手、ムハンマド・アッサーフのサクセスストーリーを映画化。パレスチナの厳しい現実をさりげなく織り込みながらも、希望が与えられる作品でした。
前半はムハンマドの少年時代の物語。音楽が好きで、大きな夢があって、ひたむきにたくましく生きる子どもたちがとにかくかわいい。時にスリリングなエピソードを交えつつ、物語はテンポよく進みますが、その中にも姉弟愛がしっかりと描かれていて、のちのムハンマドの決意が自然な思いとして受け止められました。
スカイプでオーディションを受けようとしたらイスラエルに電気を止められ、手に入れた発電機は壊れてしまう。エジプトまで行くことを決意するも、パレスチナを出るのも命がけ。パスポート、ビザ、チケット...いくつもの難関を乗り越え、オーディションを受けるまでがまるでサバイバルゲームのようでした。
ムハンマドが予選を勝ち抜いていく展開は、結果が予想できるだけに少々冗長に感じられましたが、祖国の期待を一身に背負い、重圧に押しつぶされそうになりながらも、果敢にチャレンジしていく姿に心を打たれました。
原題の Ya Tayr El Tayer はムハンマドが最終戦で歌った歌で、英語では Oh Flying Bird という意味らしい。故郷への思いを切々と歌った歌は、どこか日本の演歌にも通じるものを感じました。
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