ひなぎく
チェコ・ヌーヴェルヴァーグの代表作で、今なおカルト的な人気を誇る1966年のチェコスロバキア映画、「ひなぎく」(Sedmikrasky / Daisies)。先月、2週間にわたってユジク阿佐ヶ谷で50周年記念上映をしていたので見に行ってきました。 ひなぎく 公式サイト
ファッション、音楽、アートなど、クリエイティブな世界で活躍するアーティストたちから絶大な支持を集めている本作。スチールを見ると、私は80年代の雑誌「オリーブ」を思い出してしまうのですが、こういうレトロなヨーロピアンテイストが大好きなので、今回の公開を楽しみにしていました。
ストーリーはかなりハチャメチャ。自由奔放な2人の少女たちが、レストランやダンスホールなど、神出鬼没に現れては、悪ふざけしたり、いたずらしたり。傍若無人なふるまいで周りを騒動に巻き込みます。
最後は荷物用のエレベーターに乗り込んで、(党幹部のためと思われる)豪華な部屋に忍び込み、ごちそうを見つけて大興奮。片っ端から手づかみで食べ、飽きると投げつけ、お皿を踏みつけ、全てをめちゃくちゃにしてしまいます。
60年代のファッションや音楽、コラージュのような映像表現は今見ても新鮮で、一見おしゃれでかわいらしい作品ですが、唐突に現れるモノクロームの爆撃映像や、2人が発する謎めいた言葉の断片など、なにやら背後に政治的メッセージが感じられます。
それというのも、この作品が作られた1966年のチェコスロバキアは、社会主義体制の中にいて、人々が自由を求めてもがいていた時代。(「存在の耐えられない軽さ」を思い出します。)
実際、少女たちの自堕落な生き方が”反体制的である”ととられたのか、はたまた突き抜けた映像表現が”西側諸国的である”とみなされたのか、この作品は公開後間もなく上映禁止処分を受けてしまったそうです。
そして2年後の1968年、チェコスロバキアはソ連から武力制圧を受け、ようやくつかみかけていた思想的自由を完全に奪われることとなるのです。(いわゆる”プラハの春”)
そうした視点から映画の少女たちを見ると、つかの間の自由を謳歌しつつ、それが叶わないことを予感して絶望する、彼女たちの心の叫びが聞こえてくるような気がしました。
「ひなぎく」の前に、(左)「闇・光・闇」(1989) (右)「対話の可能性」(1982)という2つのチェコ・アニメーションの短編映画が上映されたのですが、こちらもかなりシュールで独特の雰囲気をもった作品。テイストは全く違うものの「ひなぎく」の影響が見てとれて、いいウォーミングアップになりました。
ユジク阿佐ヶ谷は、昨年オープンしたばかりのミニシアターだそうです。待合室には北欧風の椅子やベンチが並び、壁にはすてきな黒板アートも! 手作りの温かい雰囲気にほっとなごみました。
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コメント
こちらでもこんばんは。
阿佐ヶ谷にミニシアターが出来たとは知りませんでした。こういう作品を上映してくれるミニシアターは本当に貴重ですよね。
この映画、私未見ですけど、タイトルはよく耳にしてました。
チェコっていうとアバンギャルドデザインが有名だから、そんな流れをくむ作品なのかしら。
時代とその時の社会情勢なんかを頭に入れて観賞すると、さらに作品の深みも増して感じられそうです。
素敵なチェコ映画の一日になりましたね。
投稿: ごみつ | 2016年10月14日 (金) 23時27分
☆ ごみつさま ☆
こちらにもありがとうございます☆
こちらのシアターのこと、私も今回初めて知りました。
アニメーションの学校の跡地だそうですが
ミニシアターが次々と閉館になる中、こうした個性的なシアターが
新しくできるのはうれしいことですね。
ずっと気になっていた作品なので、見ることができてよかったです。
「アメリ」のようなかわいい女の子ムービーを想像していたので
背後にある反骨精神や、アバンギャルドな表現にびっくりしました。
当時の東欧でこういう作品を発表するのは
相当勇気がいることだったでしょうね。
同時上映のアニメーションも不思議な味わいがあって、
チェコに対する興味を掻き立てられた一日となりました。
投稿: ☆ ごみつさま ☆ | 2016年10月16日 (日) 01時13分