美術館・博物館

ゴッホとゴーギャン展 @東京都美術館

上野の東京都美術館で開催している「ゴッホとゴーギャン展」(~12月18日まで)を見に行きました。ゴッホとゴーギャン、2人の関係にフォーカスした企画展で、関連画家の作品をふくめ計68点が展示されています。

ゴッホとゴーギャン展 特設WEBサイト
Van Gogh and Gauguin: Reality and Imagination

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オランダからフランスに移り住み、情熱的なタッチで迫力ある写実画を描いたゴッホ。一方、世界を旅して原始社会に理想を見出し、想像力豊かな作品を残したゴーギャン。同じ時代を生きた2人の画家は1988年、南仏アルルにあるゴッホの”黄色い家”で共同生活をはじめました。

お互いに刺激を与え合いながらも、芸術観と性格の違いから時に激しく衝突し、わずか9週間で2人の生活は破綻しましたが、手紙でのやりとりはゴッホが亡くなるまで続いたそうです。

本展では2人の軌跡をたどりつつ、作品を通じて2人の違いや関係を見ることができました。ゴッホが描く陽光あふれる南仏の風景と、ゴーギャンが描くイマジネーションの世界を堪能しました。

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ゴッホ 「自画像」 (1877)

ゴッホが生まれ育ったオランダ時代の作品はどれも暗い色調でしたが、パリに移り住んでからは花が開いたように明るく洗練された作風になりました。またこの時初めて鏡を手に入れたそうで、パリでの2年間で30点近くの自画像を残しています。よく自画像を描いたのはモデルを雇うお金がなかったためでもありました。

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ゴーギャン 「自画像」 (1885)
こちらはゴーギャンが、コペンハーゲンの妻の実家で描いた自画像。この頃、株式仲買人の仕事を辞め、画家になる決意を固めました。

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ゴッホ 「収穫」 (1888)

南仏アルルに移り住んだゴッホが、初めて迎えた小麦の収穫風景を描いた作品。そういえば麦秋は夏の季語だと思い出しました。さんさんと輝く陽光の下、明るい色彩がパッチワークのように連なる田園風景が美しい。弟テオへの手紙にも自身の”最高傑作”と書き送った自信作です。

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ゴーギャン 「ブドウの収穫、人間の悲惨」 (1988)

一方こちらは、ゴーギャンがゴッホとの共同生活中に描いた作品。アルルのぶどうの収穫風景に、なぜかブルターニュの農婦(左)と、ペルーのミイラのポーズをとった悲嘆にくれる女性(手前)がいっしょに描かれています。ゴッホはゴーギャンの想像力を称賛し、大いに刺激を受けたそうです。

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ゴッホ 「ゴーギャンの椅子」 (1888)
ゴッホがアルルでの共同生活中に描いたゴーギャンの椅子。椅子の上に置かれたろうそくと本は、ゴーギャンの豊かな想像力を象徴しているようです。

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ゴーギャン 「肘掛け椅子のひまわり」 (1901)
一方こちらはゴッホの死の11年後、ゴーギャンがタヒチで描いた椅子です。ひまわりはゴッホが好んで描いたモチーフですが、ゴーギャンはフランスからわざわざひまわりの種を取り寄せて育て、この作品を仕上げました。

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ゴッホ 「タマネギの皿のある静物」 (1898)
耳切り事件で入院したゴッホが、退院後すぐに描いた作品。一見無造作に置かれた身の回り品ですが、ひとつひとつに意味がこめられているような気がします。

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ゴーギャン 「タヒチの3人」 (1899)
文明化されていない世界を求め、ゴーギャンはタヒチに移り住みましたが、ここにも西洋化の波は訪れていました。この作品は聖書からの隠喩で、左の女性のりんごは「悪」、右の女性の花は「善」を表現しているようです。

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ダリ展 @国立新美術館

六本木の国立新美術館で開催されている「ダリ展」(~12月12日まで)を見に行きました。世界の3大ダリ・コレクションから招来した作品を中心に、約250点が展示されています。

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日本では10年ぶりの回顧展とのことですが、私自身は8年前にニューヨークでダリ展を見ています。この時も盛況でしたが、今回改めてダリ人気を再確認しました。
art Dali: Painting & Film @ニューヨーク近代美術館

ダリはグロテスクな作品もありますし、私にとっては決して心地いいわけではないのですが、なんとなく気になる存在といいましょうか...。作品の中に潜むメッセージを見つめているうちに、深層心理を刺激され、いつの間にか自分自身に向き合っているような不思議な感覚を覚えます。

先日、ロンドンのファッション・デザイナー ヴィヴィアン・ウェストウッドの最新コレクションでモデルの体を這う蟻のタトゥーを見て、すぐにダリを思い出しましたが、こういうわかりやすいシンボルも魅力のひとつかもしれません。

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キュビズム風の自画像 (1923)
シュルレアリスムの代表的画家と知られるダリですが、初期の頃はポスト印象派にはじまり、キュビスム、ピュリスム、未来派...と新しい芸術に果敢に取り組んでいました。一見ピカソ風?のこの自画像も新鮮です。

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ルイス・ブニュエルの肖像 (1924)
マドリードの王立美術学校時代の友人で、のちに映画監督となるルイス・ブリュエルの肖像画です。ダリとブリュエルは、「アンダルシアの犬」、「黄金時代」と続けて映画を共同制作し、大反響をよびました。本展でも上映されています。

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降りてくる夜の影 (1931)
荒涼とした異星の風景のように見えますが、実際にはダリが妻ガラと住んだスペインの漁村を描いているそうです。晴れた青空と深い闇、昼と夜が共存しているような風景は寂寥感にあふれ、わけもなく不安をかきたてられます。

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謎めいた要素のある風景 (1934)
中央で背を向けてキャンバスに向かっているのは、ダリが敬愛していたフェルメール。その右奥に小さく描かれているのは少年時代のダリだそうです。時空を超えた夢の中の風景のようにも感じられます。

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アン・ウッドワードの肖像 (1953)

第二次世界大戦がはじまると、ダリとガラはアメリカに亡命し、1948年まで暮らしました。これはアメリカの女優、アン・ウッドワードに依頼されて描いた肖像画。岩のくり抜きが女性の輪郭と同じで、海の水平線がドレスのベルトとつながっているのがおもしろい。

すでに何度も展覧会を開き、成功を収めていたダリは、アメリカ在住中に映画や舞台芸術、ファッションや宝飾の仕事も手掛け、活躍の場を広げました。本展ではダリが関わったヒッチコックの「白い恐怖」、ディズニーの「デスティーノ」も上映されています。

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ラファエロの聖母の最高速度 (1954)

広島・長崎への原爆投下に衝撃を受けたダリは、原子物理学と宗教的主題を融合した作品を数多く制作するようになります。そして晩年は、ガラとともに故郷スペインの小さな漁村に移り住み、古典芸術へと回帰し、自らの集大成ともいうべき大作を手掛けました。

その姿容貌からエキセントリックなイメージのあるダリですが、愛妻家であり、商業的なセンスもあり、創造力豊かな芸術家である一方、現実を客観的に見つめることのできるリアリストでもあったのではないかな?と想像しました。

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鈴木其一 江戸琳派の旗手 @サントリー美術館

六本木のサントリー美術館で開催されている「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展(~10月30日まで)を見ました。会期中、5期にわたって展示替えがあり、私が見たのは第2期です。東京展のあとは、姫路市立美術館、京都の細見美術館に巡回します。(「朝顔図屏風」は東京展のみ)

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江戸琳派の祖、酒井抱一の一番弟子で、後継者として知られる鈴木其一。本展は、其一の代表作品と師弟の作品を一堂に集めた回顧展で、ニューヨークのメトロポリタン美術館から、其一の傑作「朝顔図屏風」も来日しています。

琳派は、尾形光琳に代表される江戸時代に発展した造形芸術の流派で、シンプルな構図や豊かなデザイン性は、今に通じる洗練された表現がありますが、江戸から明治への橋渡しを担ったのが、其一といえるかもしれません。作品を通じて、日本の四季や自然の美しさを改めて実感しました。

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群鶴図屏風 (ファインバーグ・コレクション)
尾形光琳の群鶴図に倣ったとされる作品。光琳と同じく左右に水流を配していますが、鶴の姿は写実的で、一羽ずつ繊細な描写がなされています。さりげない立ち姿ですが、構図に計算されたみごとなバランスを感じました。

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萩月図襖 (東京富士美術館)
紅白の萩の花を照らす月明り...秋らしい風景が、詩的で風雅な作品です。繊細な花々と流れるような枝ぶり。月と対話しているような構図もすてきです。

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水辺家鴨図屏風 (細見美術館)
鶴とはひと味違って...よちよち歩くアヒルたちの姿が愛らしい。

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(左) 夏宵月に水鶏図 (個人蔵)
(右) 三十六歌仙図 (出光美術館)

酒井抱一から受け継がれたという描表装(かきびょうそう)の作品です。描表装とは、本来の絵の周りの表装部分を絵で描く、一種のだまし絵。パッチワークのような華やかさがあって、柄合わせのセンスも楽しめました。

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朝顔図屏風 (メトロポリタン美術館)

本展のハイライトであり、其一の最高傑作でもある「朝顔図屏風」。12年ぶりの来日です。構図と群青と緑青の色彩構成は、尾形光琳の「燕子花図屏風」を彷彿させますが、マチスの「ダンス」も思い出しました。^^ 大きな屏風いっぱいに広がる朝顔は、躍動感と生命力にあふれていて、圧倒されました。

青山の根津美術館では、「燕子花と八橋」(2012)「燕子花と高白梅」(2015)と、これまでにも魅力的な競演を堪能しましたが、いつの日か「燕子花と朝顔」が実現したらうれしいです。

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(左) 藤花図 (細見美術館)
(右) 花菖蒲に蛾図 (メトロポリタン美術館バークコレクション)

どちらも花を丹念に写実的に描いた作品で、特に薄紫色のヴァリエーションに魅せられました。花菖蒲はひとつひとつ違う色・模様に描き分け、蛾のグレーのアクセントも効いています。蛾がこんなに美しいなんて...感動しました。

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柳原良平 海と船と港のギャラリー &横浜オクトーバーフェスト

10月10日の体育の日、みなとみらいにある横浜みなと博物館に「柳原良平 海と船と港のギャラリー」(~11月6日まで)を見に行きました。昨年、柳原さんが亡くなられた後に横浜市に寄贈された作品の中から、約150点が展示されている回顧展です。

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柳原良平さんは美大卒業後、サントリーに入社。”アンクルトリス”の広告デザインで人気を博しました。子どもの頃から船が大好きだった柳原さんは、港が見える横浜に住み、横浜港をはじめ、国内、世界各地の港や船をモチーフとしたイラスト、絵画を描き続け、また船にまつわる本も数多く執筆しています。

アンクルトリスの角張った独特のイラストが、切絵で描かれていることを今回初めて知りましたが、このほか、ペン画、水彩画、油彩画、リトグラフなど、多彩な表現で描かれる海と船と港の世界は、どれものびのびとして明るく、旅情をかきたてられました。

特に横浜出身の私にとって、横浜港は小さい頃からの大切な思い出とともにある場所なので、懐かしさで心がぎゅ~っと締めつけられました。大きな客船だけでなく、観光船やコンテナ船、港で働く船など、どの船も表情豊かに生き生きと描かれていて、柳原さんの船への大きな愛情が伝わってきました。

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横浜港 (リトグラフ 1990)

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飛鳥入港 (油彩画 1995)

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さて...横浜みなと博物館の前のドックには、1984年に引退した帆船日本丸が保存され、一般公開されています。この日は年に12回ある”総帆展帆”(そうはんてんぱん)の日でした。(年間スケジュールはコチラ

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いつもはたたんである帆を、この日は訓練を受けたボランティアの方たちがマストに上り、約1時間かけて29枚すべて広げます。高いところに上るのはなかなか勇気がいりますが、女性のボランティアも多いそうですよ。

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すべて広げるとこのような晴れ姿に。この日は国際信号旗を船首から船尾まで飾る”満船飾”(まんせんしょく)もあって、いっそう華やか。優美な姿に魅了されました。

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このあと、汽車道を歩いていると、今月グランドオープンしたばかりの水陸両用バスが、海上を進んでいるのが見えました。横浜みなと博物館の横に乗り場があり、関内~大桟橋~みなとみらいの横浜らしい風景を、海から、陸から見て回れます。(詳細はコチラ

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沿岸のスロープをのぼって...ここから陸路を走ります。横のクジラさんのイラストがかわいい。見慣れた風景も、いつもと違った目線で見れるかも? 機会があれば、乗ってみたいです。

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この日は赤レンガ倉庫で「横浜オクトーバーフェスト2016」(10月16日で終了)もありました。オクトーバーフェストはドイツ・ミュンヘンで開催される世界最大のビール祭り。横浜は日本のビール産業発祥の地ということもあり、2003年から開催されているそうです。本場ドイツからもたくさんのビールが来日していました。

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特設会場の中ではドイツの楽団による生演奏があり、歌って、踊って、飲んで、食べて...と大盛り上がりでした。私たちは建物の外の席に座りましたが、それでも熱気が伝わってくるほど。ふだんはめったにないことですが、隣の席の人たちとも自然と会話がはじまります。

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ビールのことはさっぱりわからないので、選ぶのは家族にまかせて...ドイツのローカルビールがたくさんあって興奮していました。右のLicher(リヒャー)は以前住んでいた小さな町のビールらしい。ジョッキはデポジット制で返すとお金がもどってきますが、これは記念に持ち帰りました。

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世界報道写真展2016 @東京都写真美術館

リニューアルオープンしたばかりの東京都写真美術館に、毎年恒例の「世界報道写真展2016」(~10月23日まで)を見に行ってきました。2015年に撮影された写真を対象とする「世界報道写真コンクール」の入賞作品から、8部門約150点が展示されています。

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今年の大賞に選ばれたのは、ポスターにあるオーストラリアの写真家ウォーレン・リチャードソン氏の作品です。警備隊に見つからないようフラッシュを焚かずに、セルビアからハンガリーの国境を越えようとする難民の男性と子どもの姿を撮影しています。国境の有刺鉄線から緊迫した状況が伝わってきました。

昨年は、あふれるばかりに難民を乗せたボートが地中海を進む写真に強烈なインパクトを受けましたが、今年は政情不安定な北アフリカから、あるいはシリアの戦闘地域からヨーロッパを目指す難民の姿を撮影した写真が多く、圧倒的な存在感を示していました。

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例えばセルゲイ・ポノマレフ氏(ロシア)の組写真。2015年、ヨーロッパに流入した難民は100万人以上に上ったそうです。多くはギリシャ、イタリアからセルビア、クロアチアを経由するため、ハンガリーではこれらの国境を閉鎖しました。写真はクロアチア国境付近で難民登録するために列を作る人々をとらえています。

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コレンティン・フォーレン氏(フランス)は、2015年1月11日、仏風刺新聞シャルリ・エブド紙へのテロにはじまる一連の事件に抗議する市民の姿をとらえました。暴力行為は許されるべきではありませんが、風刺と偏見の狭間で、言論の自由とは何か、考えさせられます。

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ケビン・フレイヤー氏(カナダ)は、中国山西省北部、煙をあげる石炭火力発電所を背景に、三輪車を引く男性の姿をとらえました。石炭燃料発電に依存している中国は、世界の二酸化炭素排出量の3分の1を占めています。中国の大気汚染は国民に深刻な健康被害を及ぼしています。

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ロハン・ケリー氏(オーストラリア)の作品です。シドニーのボンダイビーチにせまる巨大な棚雲は、このあと突風、ゴルフボール大のひょう、豪雨をもたらしました。ビーチで平然と寝ている人たちに、思わず逃げて~!と叫びたくなります。^^

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ブレント・スタートン氏(南アフリカ)による組写真です。野生動物の密猟をテーマにした写真は、ここ毎年のように取り上げられています。アフリカ全土で象牙の密猟取引が武装勢力の資金源となっていて、レンジャー隊との激しい攻防戦が続いています。

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ダリオ・ミッチェデェリ氏(イタリア)の作品です。レバノンのベカー高原の難民キャンプで記念写真を撮る人々。行方不明の家族を示す空いた椅子に胸を衝かれます。

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日本からは小原一真氏が入選しました。チェルノブイリ原発事故の5ヶ月後、キエフで生まれた病弱な少女マリヤが抱える問題を、ウクライナのプリピャチで拾った古いフィルムを使って撮影し、組写真で表現しました。小原氏は福島第一原発の取材で知られるフォトジャーナリストです。

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最後に気持ちが明るくなる写真を。グレッグ・ネルソン氏(アメリカ)が撮影した、2015 NCAAトーナメント(全米大学男子バスケットボールリーグ)の写真です。長い影で選手たちの動きを表現しているのがかっこいい。

今年の受賞作品は、こちらのサイトで見ることができます。
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過去の感想はこちら。
pencil 世界報道写真展2015
pencil 世界報道写真展2014
pencil 世界報道写真展2013
pencil 世界報道写真展2012
pencil 世界報道写真展2011

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メアリー・カサット展 @横浜美術館

記事にするのがすっかり遅くなりましたが...先月、横浜美術館に「メアリー・カサット展」(9月11日で終了)を見に行ってきました。9月27日~12月4日には、京都国立近代美術館に巡回します。
art メアリー・カサット展 公式サイト

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メアリー・カサット(1844-1926)はパリで活躍したアメリカ人の印象派画家。21歳の時にパリに渡ったカサットは、ドガと運命的な出会いをはたし、印象派展に参加しました。明るく豊かな色彩で身近な女性たちを描き、特に母と子の絆を描いた作品で知られています。

ポスターの慈愛あふれる作品に魅了され、楽しみにしていた本展。まとめて見ることの少ないカサットの代表作を中心に、親交のあった画家たちの作品やカサットが収集した浮世絵などが展示され、カサットの魅力がまるごと堪能できる企画展でした。

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桟敷席にて (1878)

オペラグラスで舞台を一心に見つめる、きりりとした横顔が印象的。向うの席からこちらを見ている男性がいますが、一向に気にする様子がありません。肌を見せない昼間の服装でマチネを見に来た女性は、カサットが求めていた新しい女性像なのかもしれません。

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眠たい子どもを沐浴させる母親 (1880)

眠くて目がとろん、足がだらんとしている幼子。無防備で安心しきった表情と、それを優しく見つめる母親の姿が相まって、見ていて幸せになる作品です、。肌に青をのせて透明感を表現しているところは、ルノワールの作品に通じるものを感じました。

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浜辺で遊ぶ子どもたち (1864)
ぷくぷくしたほっぺ、足を投げ出す無垢な姿が愛らしい。平和で満ち足りたひと時を感じる作品です。

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夏の日 (1894)
モネの「舟遊び」を思い出しました。キラキラと輝く水面から夏の明るい陽射しが伝わってきます。

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果実をとろうとする子ども (1893)
ピンクとグリーンの色の対比が美しい。くっきりとした輪郭線に、力強さと生命力を感じました。

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母の愛撫 (1896)
むちむちとした子どもの感触が伝わってくるような作品。母と子の豊かで濃密な時間が感じられます。

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沐浴する女性 (1890-91)

印象派のほかの画家たちと同じく、浮世絵から大きな影響を受けたカサットは、多色刷りの版画作品も数多く残しています。喜多川歌麿や鳥居清長の美人画に感動したカサットは、女性の日常や母子に自らのテーマを見出しました。構図や小物の使い方にも浮世絵の影響が伝わってきます。

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2年前に「ボストン美術館 華麗なるジャポニズム展」で見た作品にも再会しました。(版画なので正確には違う刷りですが)

女性が画家になることが難しかった時代に、ドガのような理解者と出会い、ベルト・モリゾといった他の女性画家たちと親交を深めながら、女流画家ならではの視点で独自の作風を切り開いていったメアリー・カサット。作品とともに、その生き方にも魅力と共感を覚えました。

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金沢能登(6) 妙立寺 ~ にし茶屋街 ~ 金沢21世紀美術館

ホテルの朝食バフェに、加賀野菜(金沢で生産される15品目の伝統野菜)を使ったお惣菜があったので、ひと口ずつ味見してみました。

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(左)は加賀麩と源助大根の金沢おでん。(右)は加賀太きゅうりの酢の物、五郎島金時の甘煮、えびす(たまご寒天)、金時草のおひたし、加賀れんこんのきんぴら、ヘタ紫なすのいしる煮びたし。どれも繊細な味つけでおいしかったです!

さて、金沢での移動は周遊バスが便利。一日フリー乗車券をフル活用しました。最初に訪れたのは、寺町寺院群にある妙立寺(みょうりゅうじ)です。

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加賀藩3代藩主 前田利常が創建した日蓮宗のお寺であり、前田家の祈願所。徳川幕府からの改易や侵略に備え、複雑な構造と敵を欺くさまざまな仕掛けをもつことから、(忍者とは関係ありませんが)別名 忍者寺とよばれています。

以前訪れた時にすごくおもしろくて心に残っていたので、今回是非家族を連れていきたいと思っていました。見学はガイドツアーとなっていて、電話での事前予約が必要です。隠し階段、落とし穴...目の錯覚や思い込みを衝いたアナログ時代のみごとな仕掛け。ガイドさんの話術も巧みで引き込まれました。

このあとは妙立寺の裏をまわって、すぐ近くにある”にし茶屋街”に寄ってみました。

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ひがし茶屋街にくらべると規模が小さいですが、それゆえに静かで落ち着いた趣がありました。通りにはお茶屋さんが並び、人気の甘納豆屋さんや老舗の落雁屋さん、なぜか?チョコレートのカカオサンパカもありましたが、いずれも町並みにしっくりなじんですてきでした。

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通りに金沢市西茶屋資料館があったので、入ってみました。2階にお茶屋さんのお部屋が再現されています。弁柄の塗り壁や調度、お道具のひとつひとつにお茶屋文化の粋を見ました。(金沢が舞台ではありませんが)宮尾登美子さんの小説「陽暉楼」を思い出しました。

このあとはバスに乗って、金沢21世紀美術館を訪れましたが...

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なんとこの日はお休み。>< こんなことなら前日に訪れればよかったと思いましたが、展示室は閉まっているものの、建物は自由に入ることができ、無料のゾーンや屋外の作品を見ることができて十分楽しめました。

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金沢21世紀美術館は、2004年にできた現代アートの美術館。円形ガラス張りのモダンな建物ですが、兼六園、金沢城といった隣接する伝統的環境に違和感なくなじんでいるのがすばらしい。美術館の設計を手がけたのは、世界で活躍する建築ユニットSANAA(妹島和代さん+西島立衛さん)です。

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マイケル・リン 「市民ギャラリー 2004.10.09-2005.03.21」

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左に見えるのは、オラファー・エリアソンの「カラー・アクティビティ・ハウス」という作品。中と外がつながっていて自由に出入りできる楽しい遊具です。エリアソンの作品は、2008年に見た The New York City Waterfalls というインスタレーションが懐かしく思い出されます。

SANAA の建築もこれまでいろいろ見ています。
art New Museum of Contemporary Art (ニューヨーク)
ship 海の駅なおしま (香川県・直島)
boutique ディオール表参道 (東京)

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ポンピドゥー・センター傑作展 @東京都美術館

上野の東京都美術館で開催されている「ポンピドゥー・センター傑作展 ―ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで―」(~9月22日まで)を見に行きました。
art ポンピドゥー・センター傑作展 公式サイト

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ポンピドゥー・センターはパリ中心部にある総合文化施設。特にフランスを代表する近現代美術コレクションで知られています。学生時代に訪れた時は、初めて見る前衛的な建物に興奮しましたが、当時はまだあまり現代アートに興味がなく、作品についてはほとんど覚えていないのです。

私が現代アートが好きになったのは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の影響が大きいです。実際ポンピドゥーが建てられたのも、戦後、ニューヨークに移りつつあったアートの発信地という地位をパリに取り戻したいというねらいがあったとか。それにはこの斬新な建物こそがふさわしい舞台だと考えられたのかもしれません。

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本展はフランス20世紀美術に焦点をあて、フォーヴィズムが台頭する1906年からポンピドゥーが開館する1977年まで、1年ごとに1作家1作品を厳選して紹介するというユニークな企画で、まるでタイムマシンに乗って、アートの変遷を旅するような楽しさがありました。

それぞれの作品に、作者の肖像写真が添えられているのは20世紀ならでは。20世紀に入って写真が登場したことで、アーティストたちはものを写し取ることから解放され、新しい表現ができるようになった、との解説には深く納得しました。

ポスターの作品は、左からマティス、シャガール、ピカソですが、それ以外にも興味深い作品がたくさんありました。

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ラウル・デュフィ 「旗で飾られた通り」 (1906)
本展のスタートを飾るのは、”色彩の魔術師”デュフィ。革命記念日にはためくトリコロールの国旗を描いた、フランス愛あふれる作品です。

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ロベール・ドローネー 「エッフェル塔」 (1926)
エッフェル塔の連作で知られるドローネー。青空を大胆に分断するカラフルなエッフェル塔は、まるでパッチワークみたい。

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二コラ・ド・スタール 「コンポジション」 (1949)
モダンなインテリアにしっくりなじみそうな、色彩をおさえた幾何学的デザインがかっこいい。絵具をたっぷりと盛り上げ、ごつごつした壁画のようなテクスチャーです。

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クリスト 「パッケージ」 (1961)
ポン・ヌフなどの大きな建造物を梱包するアートで知られるクリスト。2005年にニューヨークのセントラルパークで見た、オレンジ色のカーテンが通路を埋め尽くすThe Gatesは、”体験するアート”として心に刻まれています。

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ヴィクトル・ヴァザルリ 「アーニー(影)」 (1967)
錯視を使ったアートで知られるヴァザルリ。この作品は一見なんじゃこりゃ?ですが、表面に60度の凸凹がついていて、見る角度によってアニメーションのように色彩構成が変わります。

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ジャン・デュビュッフェ 「騒がしい風景」 (1973)
アンフォルメル(不定形)のアートで知られるディビュッフェ。かなり大きな作品ですが、厚さ4cmほどの板が描画に合わせて切り取られています。落書きのような自由な表現が楽しい。

ラストの1977年は、レンゾ・ピアノ&リチャード・ロジャースによるポンピドゥーセンターのスタディ模型。第2次世界大戦が終わった1945年は、作品の代わりにエディット・ピアフの「バラ色の人生」が流れていました。絵画のほか、彫刻、家具、写真、映像作品とあり、バラエティ豊かで楽しめました。

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ルノワール展 @国立新美術館

招待券をいただいて、六本木の国立新美術館で開催されている「ルノワール展」(~8月22日まで)を見に行きました。世界有数のルノワール・コレクションを誇る、パリのオルセー美術館、オランジュリー美術館から、100点余が来日しています。

virgo ルノワール展 公式サイト

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私がオルセーとオランジュリーを訪れたのは、オルセーが1986年に開館した2年後の夏。どちらも大好きな美術館です。オルセーの優美で荘厳な建物が、もとが駅舎だったというのも驚きですが、自然光の入る明るい展示室が当時としては画期的で、印象派の作品を展示するのにぴったりの空間だと感動しました。

印象派の作品は日常をテーマにしたものが多く、そのわかりやすさゆえに、近年は揶揄されることもありますが、私は大好き。特にルノワールの作品は、曇りのない明るさと豊かさがあって、見るたびに幸せな気持ちに満たされます。

久しぶりに代表作の数々と再会して改めて色彩の輝きに魅了され、特に木漏れ日の美しさに気づかされました。息子のジャン・ルノワールの映像作品を見ることができたのも思いがけない喜びで、ルノワールの家族愛と、当時のパリの息吹に思いを馳せました。

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陽光のなかの裸婦 (エチュード、トルソ、光の効果) (1876)

最初の展示室には、ルノワールにはめずらしい男性の裸体を描いた「猫と少年」と、初期の代表作「陽光の中の裸婦」の2点。「陽光~」で描かれるまだらに青い肌は、当時は”腐敗した肉体”と酷評されることもあったそうですが、私には青い影から木陰の心地よさが伝わってきました。

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ぶらんこ (1876)

ブルーのリボンがついた愛らしいドレスに身に包んだ少女はジャンヌといい、ルノワールのお気に入りのモデルだったそうです。健康的で天真爛漫な少女の姿は、レイチェル・マクアダムスに似ているような...?

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ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会 (1876)

モンマルトルのダンスホールに集う人々を描いたルノワールの代表作。手前中央の黒いドレスに身を包んだ女性は、「ぶらんこ」にも描かれているジャンヌです。太陽の下のパーティは明るく開放的で、歌い、踊り、語らい、誰もが笑顔で楽しそうです。

今回、ルノワールの次男で映画監督のジャン・ルノワールの「ナナ」、「フレンチ・カンカン」、「恋多き女」の3作品が編集上映されていたのですが、「恋多き女」が、まるでこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット~」が動き出したかのような作品で、合わせて見ると感慨もひとしおでした。

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(左)都会のダンス(1883)  (右)田舎のダンス (1883)

これも大好きな作品。2つの対比が鮮やかですが、左の女性はユトリロの母で、のちに画家として活躍するシュザンヌ・ヴァラドン。右の女性はのちにルノワールの妻となるアリーヌ・シャリゴ。2人の女性の間で揺れ動くルノワールの心のうちと、決断が秘められているといわれています。

ちなみに私は、左は(若い頃の)ジェニファー・コネリー、右はミシェル・ウィリアムズを思い浮かべました。

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ピアノを弾く少女たち (1992)

長くピアノを習っていたので、子どもの頃から大好きな作品でした。学校の教室に飾ってあったのも懐かしい思い出です。

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若冲展 @東京都美術館

招待券をいただいて、上野の東京都美術館に「生誕300年記念 若冲展」(~5月24日まで)を見に行きました。
heart 若冲展 公式サイト

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伊藤若冲(1716-1800)は江戸中期に京都で活躍した絵師。緻密で色鮮やかな花鳥画や、繊細にて大胆な水墨画、ポップでユーモラスな作品もあり、特に近年、大きな人気を集めています。今回は若冲の生誕300年を記念しての大回顧展。初期から晩年までの代表作約80点が紹介されています。

中でも「釈迦三尊像」3幅と、「動植綵絵」30幅が一同に会するのは、東京では初めてとのこと。東京都美術館が毎日発信している待ち時間をチェックすると、初日から連日50~60分待ちという状況でしたので、ゴールデンウィークに入る前の平日の雨の夕方をねらって訪れました。

30分ほどで入れましたが、中はかなり混雑していて、とてもじっくり鑑賞できない...混んでいる美術館が何より苦手なので、やむを得ず一部に絞って見てきました。私が楽しみにしていた「動植綵絵」30幅は、地下の入口から1階上った展示室に、楕円周上に弧を描いてずらり~と並んでいました。

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(左) 動植綵絵 老松白鳳図 (1766)
華やかに広がる鳳凰の尾は、まるで宝塚の羽飾りのよう。羽先のハート模様がキュートです。白塗りの顔に真っ赤なくちばし、細めた目の表情がなんとも艶めかしい。

(右) 動植綵絵 群鶏図 (1765)
若冲といえば鶏。鶏を描いた作品は今回もたくさんありましたが、中でも大迫力なのが13羽の鶏を集めたこの作品。一見写生に見えますが、黒、白、茶のバランスが絶妙で、計算されたグラフィックアートのよう。

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(左) 動植綵絵 梅花群鶴図 (1765)
動植綵絵はどれもすてきですが、特に気に入ったのがこの作品。動きの感じられる構図が好きです。若冲の描く鳥はどれも羽の一本一本、足のうろこのような模様まで、細かく描きこまれていて驚嘆します。

(右) 動植綵絵 牡丹小禽図 (1765)
これも好きな作品。小さな画像ではごちゃごちゃして見えますが、彩色がほんとうに美しいのです。牡丹は私も大好きな花です。

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(左) 動植綵絵 諸魚図 (1766)
(右) 動植綵絵 群魚図 (1766)
こんな楽しい作品も!

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仙人掌群鶏図襖絵 (1790)
襖の左右の端に、仙人掌(サボテン)が描かれているのがおもしろい。鶏の姿もひとつひとつ個性があって見入ってしまいます。

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象と鯨図屏風 (1797)
2008年に北陸の旧家で発見され、滋賀県のMIHO MUSEUMに収蔵されました。この時代の屏風絵としてはかなり斬新ですが、ゆるキャラのような象がかわいくて、絵本を見ているような優しい気持ちになります。

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鳥獣花木図屏風 (18世紀)
若冲の収集家で知られる、アメリカのエツコ&ジョー・プライス夫妻のコーナーから。86000個の升目に色を埋め込んで描かれた大作です。優しい表情の象のまわりに動物たちが集う様子は、この世の理想郷に思えてきます。

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拡大するとこんな感じ。タイルで再現してみたい!

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